私が愛してやまないビートルズ、そしてジョン・レノン。そのジョンに対しての気持ちを書くはずが、ビートルズを題材にした、
当人の回顧録になってしまいました。単なる一人の人間の戯言に過ぎません、不快に思われる方は読まないようお願いします。
拝啓、敬愛なるジョン・レノン様 N
第15話 「ミキサー完備スタジオ貸します」出演
 「ミキサー完備スタジオ貸します」・「みきさーかんび、スタジオかします」誰が付けたか知らないが、よく解らないコーナーのタイトルである。武澤君にはこれが「ミスター寛美、スタジオ貸します」と聞こえていたらしく、キダ・タローが司会しているのに寛美さんは何処に居るんだろうと思っていたそうだ。
あるいは「ミキサ、カンビ」の二人がやっているコーナーみたいに思っていたという人もいたと聞いたことがあるが、いずれにしてもよく解らない名称であったことは確かだ。
収録は1月の終わり頃だった。大阪環状線は福島で降りて徒歩5分くらいだったか、いや、どのくらい掛かったかは定かでないが、大して遠くなかったように覚えている。1月にしては明るい空の良いお天気で、僕達は大きくて近代的な建物を見上げ、恐る恐る受付に行った。
愛想の良い綺麗なお姉さんが優しく案内してくれる。通されたスタジオは結構広かった。体育館の1/4程度の広さというか、アンプや楽器を置いてある収録ステージを取り巻くように折りたたみ椅子がたくさん置いてある。100人くらいは優に座れるくらいの数の椅子が用意されていたと思う。スタジオには世話をしてくれる数人の若いスタッフの他、僕達のような高校生、大学生の出演者が4,50人くらい集まっていた。
スタッフから説明を受けて各自1曲づつのリハーサルである。1週間分の収録だから6組くらいだったように思う。リハーサルを終えての昼食だが、局内に食堂があるのを知らなかった僕達は局内の喫茶店で食事をした。大して美味しくもない食事だったが、値段だけはべらぼうに高かったと記憶している。僕達の隣の席に桂ざこばさん(当時桂朝丸)が関係者と笑談されてて、さすが放送局だなと実感した。
昼食が終わって本番である。キダ・タロー氏が拍手に迎えられてスタジオに入って来られた。何度かTVで見たことはあったが、小柄で温厚な優しい声の持ち主だ。この頃はまだ自毛で被りモノはされてなかったように思う。
最初の出演者から順番に収録して行く。僕達は4番目だった。
僕達4人は最初キダ・タロー氏の前に立ち、インタビューを受ける。武澤君はすでに緊張していた。インタビューに答えるも言葉が詰まる。僕も演奏をすることに関しては緊張感など無かったが、面と向かってインタビューされる事には緊張を隠せなかった。
話をされても何処でどう相づちを打てば良いのか解らず、間の抜けたインタビューに終始したように思う。
ミキサーを完備したスタジオとは言っても実際は大したことのないシロモノだった。スタジオにはモニタースピカーさえなかったのである。
だからアンプから流れる爆音の中で自分の声を頼りに唄わないといけないという辛いものだったが、元々PAなどというちゃんとした環境で演奏出来ないことには慣れていた僕達だったから何とか対処出来た。それ以上に残念だったのが貧弱なドラムセットで、スネアはスナッピーがなく、ポコポコと鳴るまるで飴屋の太鼓のようで、こんなことなら自前のスネアを持って来るんだったと悔やんだが、今更どうにもならない事と諦めた。
武澤君はかなり上がっていたようで、かなりコードを間違えていた。今もこれを聴くと笑ってしまう。
1曲目が終わって観客に感想を聞いたり、リスナー代表の好評を聞いたりして、最後にキダ・タロー氏の感想を聞くのだが、僕は何故かこの時が一番緊張していたようで、目の前で喋るキダ・タロー氏に「はぁ、はぁ」と返すしかなかった。とは言え気の利いた言葉を返せる隙間も無かったのは事実だが。
収録の途中、来客があった「海原千里・万里」の千里さん、今で言う「上沼恵美子」さんだった。
当時20才くらいか、スラ〜っと背が高くて美人だった。現在ほどのキツイ突っ込みはなかったが、でもさすがに面白いトークだったのを覚えている。
局からはヤンリクノートだのステッカーだのと色々もらい、交通費とモノラルではあるがオープンリールの収録テープを貰って帰った。

帰りがけにター君の家に立ち寄り、早速オープンリールの収録テープを聴いてみることにした。最初のテーマソングから入っている。ほんの先ほど行われたことなので場面は鮮明に浮かんで来る。
トークなどはどうでもよく僕達が気になっていたのは曲の出来だった。しかし、聴いてみてガックリ、なんじゃこりゃとなった。
ミキサーで音を絞り過ぎてギターなどは本当にアンプを通しているのかと疑いたくなるくらいのペンペンした音、ヴォーカルも最初はノン・リバーブで、どういうワケか途中からリバーブが立ち上がるといった不自然なもので、スタジオで演奏した迫力ある音源にはほど遠いものになってしまっていた。
放送局のプロのミキサーがやってくれるのだからと期待していたのがこのような結果で、僕達はかなり落ち込んでしまった。しかし、公共の電波に乗って僕達の音楽が世間に流れるのだと思うと、そちらの方が嬉しくてしょうがない僕達だったが...

※キダせんせの画像をクリックすると「...」が聴けます。音質が悪いというよりカッコ悪いんですが(笑)


 M O 

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