お利口ちゃんの僕は、『わかった。5シリング君にあげたつもりで、クギをハンマーで打ち込んだつもりになるよ』って言ったのさ。その時、本当の意味でふたりは出会ったんだ。その時、二人は互いの目をしっかり見つめ合ったんだ」
5シリングの話は共通しているが、微妙に、違った印象になっている。この後の2人についても、諸説ある。
この後、ヨーコはジョンについて行きたかったが、ジョンは3日間ろくに眠っていなかったので丁重に断った。その後、次々とヨーコからの手紙が届いた...
あるいは、最初からジョンは大金持ちのカモとして彼女に引き合わされたといったものまである。
オノ・ヨーコがビートルズを解散に追いやった元凶だという視点で書かれたものには、初めからヨーコがジョンに取り入ろうとしたという印象を与える記述もある。かと思えば、ヨーコはジョンが誰であったかもまったく知らなかった等々...ジョンとヨーコのお話も、もうすでに伝説化して、諸説入り乱れている感じだ。
しかし、誰よりもジョンについて知っていたあのピート・ショットンの見方は、いずれにも当てはまらない。出逢った後のことについて、ピートは語っている。
PA(個人秘書)として、いつもジョンのそばに居た筈のピートは、2人の出会いについては触れていない。しかし、その頃のジョンは、精神的におかしかったかも知れないということを述べているのが興味深い。
「ある晩、マリファナとLSDをちょっとだけやって、ケンウッドの居間でテープを聴いてたら、突然、ジョンが言ったんだ。ピート、僕はイエスキリストなんだよって」
「なんだって?と聞き返すと、ジョンは繰り返したんだ。イエス・キリストだよ、戻って来たんだってね」
そんなことを言われたピートの反応が、なかなか面白い。
「ふーん。それでどうするつもりなんだい?」
仰天してしまわない処は、昔からジョンを知っているピートだからだろう。これは普通なら、ちょっと引いてしまう話だ。
「ジョンは、世界に自分が誰なのか告白するって言うんだ。殺されるぞって言ったら、ジョンは、それは困った。キリストは処刑されたとき何歳だった?って訊くんだ。32じゃないかって答えたら、ジョンは、じゃああと4年は生きられる。とにかく明日の朝、アップルのみんなに打ち明けるよって言ったのさ」
ドラッグによる影響なのかどうなのか。しかし、翌朝になってもジョンは、自分はキリストだと信じ込んでいたのである。ピートはジョンの言葉に従って、アップルに連絡し、緊急会議を招請する。
かくて、ビートルズの他の3人を含めた会議が開かれた。
「みんなに言わなきゃならないことがある。とても重要なことなんだが、実は僕は...イエス・キリストなんだよ。戻ってきたんだ。まあ、プライベートなことなんだけど」
ビートルズの3人は唖然としていたが、何も言わなかった。誰もジョンの言葉を否定しなかった。ひそひそ話をしては、沈黙が続く。ひとり、ピート・ショットンだけが、吹き出しそうになるのを必死になって堪えていた。
|