Episord 59 予言... |
1967年のポール・マッカートニーは、彼自身にとって、充実した年と言えた。アルバム『サージェント・ペパー…』は、事実上、ポールのアイディアから全てが始まっているからである。彼は、今までのビートルズのイメージを根本から覆すような世界を創り上げたかったのだと言う。 |
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もし、訴えられたら、最高5,000万ポンドの賠償金が請求されるという話がポールに伝えられるのだが、あくまでもポールは強気だった。「結構です、そういうことにしましょう」 しかし、法律の専門家が見れば、そのアルバム・デザインが危険だらけだったのは間違いなかった。 結局、エプスタインは、すでにNEMSを辞めていたウェンディー・ハンソンに、この厄介な問題の解決を依頼する。彼女は、あちこちに国際電話をかけ、必要な許可を全て取りつけたのである。 エプスタインは、この肖像権の問題をはじめとして、ビートルズの中で1人、ポールが他を3人を差し置いて、あるいは代表するような形で動きだしているのが気になっていた。 やがて、ビートルズは、ポールが中心となって、アップルという会社を発足させた。 エプスタインの秘書であったジョーアン・ニューフィールドが言う。「アップルを思い付いたのはポールよ。ブライアンを一等心配させたのは、いつもポールだったわ」 「電話で文句を言って来るのは決まってポールでした。ブライアンは長時間かけてポールに説明したり、あるいは口論したりしなければなりませんでした。人前では仲良さそうにしていましたが、ビートルズが何かゴタゴタを起こしている時の犯人は、殆どがポールでした。アップルは、ポールがブライアンにとっての頭痛のタネだということを示す証拠になりました」 エプスタインの秘書の言葉であるから、ポールは「犯人」にされてしまうのであるが、今やビートルズの行動はポールが中心となっていることは明らかだった。 アップルは事業投資をしない場合、300万ポンドの税金を支払うことになるという税務アドバイザーの助言により設立することになったという。事業ごとに子会社が設立される。アップルレコード、アップル・ミュージック、アップル・フィルム・アップル出版、アップル・エレクトロニクス…という具合だ。 ジョンの親友にして悪友、あのピート・ショットンもアップル・リテールとして小売店を経営することになる。 しかし、エプスタインは、アップルがビートルズにとって不名誉な結果になると信じていた。ビートルズはあくまでアーティストに専念すべきであり、ビジネスの世界に足を踏み入れてはならない。経営は専門家に任せるべきだと確信していた。彼は友人にこぼしたという。 「結成当時、音楽づくりの場から、自分を締め出す賢明さを持っていた彼らが、今頃になって自分達にビジネスのセンスがあると思い込むとは、何と馬鹿げたことだろう」果たしてその言葉は、あとから振り返ると“予言”そのものとなる。しかし、偉大な予言者も、自らの行動に関しては、しばしば予言不能に陥ることがあることも事実なのである。 、 |
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