Episord 54 愛こそはすべて |
アルマ・コーガン。彼女は、英国においてビートルズ登場以前に誰もが認めるナンバーワンの歌手だった。 |
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もし、エプスタインが結婚するのだとしたら、アルマ・コーガンしかなかったというのが周囲の人間の感想だった。彼がホモセクシャルであるということも、何故か問題とはならなかった。妹のサンドラでさえ、そのことは気にならなかったと言うのだ。 「その話は、そっと何処かへしまい込まれていましたの」 母親のフェイがどの程度まで知っていたのかは定かではないが、彼女は2人が真剣に交際しているのだと考えていた。彼女がその気になって結婚話を進めようとしても不思議はなかった。 ユダヤ人でもある母が、アルマとブライアンの幸福を祈っていたのは間違いなかった。しかし、やがてエプスタインは、ロンドンに留まることなく世界中を忙しく飛び回るようになる。ハードスケジュールに忙殺され、数カ月間、彼女とは会えなくなっていた。 1966年10月26日、アルマ・コーガンはガンのために亡くなった。34歳という若さであった。 エプスタインは、ふさぎ込む。その落ち込みようは非道かった。 1967年、エプスタインがドラッグを常用していることは、もはや公然の秘密となっていた。体を気遣うスタッフの言葉を彼は無視し続けた。医師からもっと給養をとるようにと忠告されたエプスタインは、別荘を買うことにする。 そこが、週末に過ごす隠れ家となれば、健康も回復することだろう。彼は、骨董品、家具、台所用品その他あらゆるものを夢中になって買い集めた。そしてスタッフにも言うのだった。 「ショー・ビジネス関係者の溜まり場じゃなく、静けさを味わう避難所にするつもりだ」だが、いざ全てが整っても、彼がそこへ“避難”することは殆ど無かった。 1967年6月25日、アビイ・ロードのEMIスタジオにBBCのカメラが持ち込まれた。ビートルズが、全世界4億人の視聴者に向けて衛星中継される特別番組の英国代表として、新曲を披露するのである。 久しぶりの緊張感で、ジョンはリードボーカルだというのに、放送の少し前からガムをかんでいた。 ■愛こそはすべて 不可知なものは あなたにも分からない 隠されていれば それはあなたに見えない 本来あなたがいる場所にしか あなたは存在できない それは 簡単なこと 必要なのは愛 愛さえあれば... ジョンは語るように歌った。 All You Need Is Love 「愛こそはすべて」と。 |
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