Episord 52 水と油の合併 |
ジョージ・マーティンが、ビートルズのエプスタインに対する態度に批判的だったのは、それ以前のビートルズとエプスタインの関係を知らなかった所為もあるだろう。 |
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オーストラリア人、ロバート・スティグウッドは英国の芸能関係者で知らぬものは無いという人物だった。興行主として才能を発揮し、演劇の世界に手を伸ばし、クリーム(エリック・クラプトンがいた)、フー、そしてビージーズといったグループを抱えていた。 彼の仕事の仕方は、エプスタインとは正反対のものであった。繊細な感受性のままに、アーティストとの人間関係を大切にしようとしたエプスタインとは違い、イヌイットにも冷蔵庫を売りつけることが出来るようなしたたかさがあった。 このスティグウッドの会社、ロバート・スティグウッド・オーガナイゼーションとNEMSとの合併を知らされた時、多くの人は、驚きの声を上げた。NEMSのスタッフは誰もそのことを知らされていなかった。これはまったく不可解な決定だった。 取締役から秘書に至るまでの全員が、驚き、憤り、エプスタインを非難した。スタッフに何も相談せずに決定したというのはエプスタインらしくなかった。NEMSのスタッフはほぼ全員、スティグウッドという人物を気に入っていなかった。そのことをエプスタインは知っており、相談すれば反対されると考えての行動だった。しかし、エプスタインはスティグウッドの経営能力を評価していたのだ。合併は必ずよい結果を生むことだろう。 しかし、まもなく両者の経営スタイルが全く違うことが歴然として来る。全く違った経営方針に戸惑ったのはジョージ・マーティンも同様だった。スティグウッドの経営人がNEMSに入って以来、それまであった会社の美点は明らかに損なわれてしまったのだ。 取締役だったジェフリー・エリスは語っている。 「まるで水と油だったよ。NEMSは世界一能率的な会社とは言えなかったけど、元気で若々しく、熱意に溢れた会社だったのに」エプスタインもさすがに後悔し始めていた。ただ、合併がNEMSに全くマイナスだったわけでもなかった。ロック界の大物、ビージーズ、クリーム、フーがその傘下に入ったからだ。 だが、スティグウッドがビージーズに熱心なあまり、NEMSの資金を“浪費”していることに気付くと、エプスタインは憤慨した。エプスタインはスティグウッドがビージーズを“第二のビートルズ”と言うのが気に入らなかったようだった。 しかし、とにかくそれでも、エプスタインはエネルギッシュに仕事をこなした。アメリカ、ニューヨークでは大勢の記者たちに、クリーム、フー、ビージーズについて熱心に語った。しかし、アメリカの記者たちは、そんな聴いたこともない(当時)グループよりも、マネージャーとしてのエプスタインのことを知りたがり、それはエプスタインを上機嫌にさせた。表向き、NEMSもエプスタインも順調のようだった。 |
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