Episord 51 屈辱 |
エプスタインの会社は拡張し続けていた。最初の頃から比べると信じられないように巨大化した会社は、多くのアーティストと膨大なプロジェクトを抱えていた。その全ての責任がエプスタインにある。 |
||
例えば、ビートルズに係わるキャラクター商品の販売などは全く視野に入れてなかった。現在では、そうした商品の売り上げが莫大なものになることは常識である。だが、当時のエプスタインにとって、そんなことは問題ではなかった。 長髪が一般的でなかった頃には、ビートルズのカツラというのも十分に商品として価値があった。まず初めに問い合わせがあったのはビートルズのカツラなのだ。ご存じのようにこういった商品は何でもありである。ただ「ビートルズ」という名前さえつけば、売れるのである。ブーツ、人形、タオル等々。 そうした関連商品の販売許可を求める問い合わせがあっても、エプスタインはすべてを拒否していた。そんなことは、ビートルズとは本質的に関係の無いものであるというのが彼の考え方だった。つまり、エプスタインはビートルズを“利用して儲けよう”という発想が全く無かったのである。ビートルズの人気が国際的なものとなり、世界中から問い合わせが来るようになって、やっとビートルズ関連商品を管理する会社を設立することになる。 関連商品産業は、エプスタインにとって屈辱的な訴訟問題にまで発展している。アメリカの関連商品会社との間で起きた問題は、結局、ニューヨーク最高裁判所にまで足を運ばなくてはならなくなり、その判事室でエプスタインは消耗する。時間に追われて十分な準備ができなかったエプスタインは、しばしば言葉に詰まり、不愉快さに顔を紅潮させたという。 一応の決着を見たこの裁判をめぐる騒動は、彼を深く傷つけ、予想もしなかった事で平静を失ったということが、彼には屈辱だったのだ。ブライアンはそれほど恥じる必要はなかった。それらについては専門家に任せていたわけであり、恥ずべきは、むしろブライアンの期待を裏切った彼らなのである。 裁判沙汰にまで発展した関連商品の問題について、ビートルズは責めたという。中でもポールは、「何百万ドルも稼げたのに、きちんと契約しなかったのはあんたの所為だ」そうハッキリ言ったそうだ。これに対しては、あのジョージ・マーティンが反論している。 「ビートルズはブライアンをきちんと評価していなかった。成功を手に入れてからの彼らは、何かあるとブライアンを責めるようになった。成功を持たらしてくれた彼に感謝する代わりに、当然、自分達に権利があるものを与えてくれないと言って非難した。彼らはとても否定的な考え方をするようになっていった。ブライアンが何かで過ちを犯すと、彼らは大声で批判して、どうしようもないマネージャーだと彼をなじった。彼が居なければ、一流になれなかったということも忘れてね」 エプスタインは“優秀なマネージャー”ではなかったのかも知れない。金を稼ぐだけの人間なら、他に、そういう人間がいるだろう。しかし、ビートルズの成功は、彼無しにはあり得なかった。そのことだけは、確かだったのではなかろうか。 |
||
50 52 |