Episord 50 ジョージの新天地 |
ジョージ・ハリスンがインド音楽に惹かれたのは、ほんの偶然からだった。映画「ヘルプ」の撮影中、インド・レストランで食事をするというシーンがあり、そこでインドの演奏家がビートルズの曲を演奏することになったのである。アレンジャーが苦労の末にインドの楽器用に書き改めた楽譜(「ハード・デイズ・ナイト」だった)をインド人達が演奏しているのをジョージが聞きつけた。 |
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そうとう真剣にシタールを学ぶ姿勢を見せて、ラビ・シャンカールも彼の姿勢を認めていたようだ。 ラビはシタールを独学しようとするのは無理だとジョージにはっきと告げる。適切な指導なくしては殆ど進歩はないだろうと。 この頃、ラビはジョージがいかに有名人であるかということが解っていなかったようで、もっと徹底して学ぶためにインドを訪れるように熱心に勧めている。 残念ながら、ジョージにはビートルズの仕事があった。少なくとも、この時点では、ビートルズから離れてしまうという発想はなかったようだ。しかし、ジョージとラビとはその後も友情を保ち続けることになる。ジョージにとっては、インドの楽器からインドに対する興味を持ったことが大きなことだったのではなかろうか。 「音楽を通じて、精神的な部分に到達したんだ。これをきっかけに、僕はヒンズー教徒になった。ヨガや宇宙的なお経を唱えることで得られる高揚感は、クスリなんかで得られるものとは全然違うものだ」どんどんインドにのめり込んでいくジョージを他のビートルズのメンバーも興味深く見守っていた。 それまでかなりジョージに辛く当たっていたポールも、こんな風に語り始める。「ジョージが偉大なる信仰を持っているということをある意味で羨ましく思う。どうやら彼は、ずっと探し求めていたものを見つけたようだ」 エプスタインは、何処にいてもビートルズについて質問されていた。「ビートルズは本当に解散してしまったのですか?」 実際、ビートルズファンからすると、いったいビートルズは何をしようとしているのか解らなかったのである。 ジョン・レノンはスペインで単独で出演する映画撮影に入っていた。リンゴもこの撮影現場にジョンを訪ねていた。(これはおそらくジョンが呼び寄せたのではなかろうか) イギリスではもう1年以上彼らの姿を見ることが出来なかったのだ。そのたびにエプスタインは言わねばならなかった。 「ビートルズの引退なんてあり得ませんよ。ちょっと気分転換をしているんだけです。映画に出たり、曲を書いたり、レコードをつくったりしているんです」 しかし、エプスタインの周辺にいる者は彼の変化に気づき始めていた。元々彼は、1つのことに集中するとそれ以外は目に入らなくなるタイプであったが、それが際立って来たのである。何かの仕事に取り掛かると、他はどうでもよくなった。山のように抱えていた仕事は、もはや、コントロール出来なくなっていたのである。 |
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