Episord 48 コンサートツアー中止 |
「もうたくさんだよ」そんな言葉を何度も聞かされていたエプスタインは、まだ事態の深刻さに気づいていなかった。彼は、ビートルズの“苛立ち”をマニラでの恐ろしい体験や、ジョンの「キリスト発言」による一過性のものだと考えていたのである。 |
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ブライアン・エプスタインのカリスマ性は健在だった。彼はこの危機的状況を脱することで、今なおその実力者ぶりを発揮していたしかし...一般的なイメージのエプスタインは実に解りやすく、受け止めやすいものであったが、周囲の人間たちに取っては、まったく違った。 当時、エプスタインの個人秘書を務めていたウェンディー・ハンソンは最も事情を知る人間の1人である。 「彼の仕事振りは、一定のパターンがありませんでした。混乱しているのが解りました。何かといえば、チャペル・ストリートに引きこもってしまうのです」 “必死になって”彼をかばったというウェンディーは、エプスタインに振り回され、何度も秘書を辞めようとしている。しかし、そのたびにエプスタインに慰留された。気まぐれな行動で彼女を追い込んでおきながら、エプスタインは彼女が辞めることは許さなかった。 今夜、一緒に何処か行こう。辞職は認めないよ。夕食を奢らせてくれ」ウェンディーは、ビートルズが人前で演奏しなくなったことが、エプスタインに影響していることが解っていた。 だから、本格的に演劇に取り組むべきだと勧めるのだ。これまでのように何もかも自分でやるのではなく、才能があるのにくすぶっている人材を発掘し、そうした若い才能にチャンスを与えるというようなことにこそ、エプスタインの力が発揮出来ると考えたのである。 「やりなさいよ!やってみるのよ!何もボップ・ミュージックに人生を捧げることはないのよ」その言葉が十分効果を発揮したことを見計らって、彼女は最も重要な問題に話を移した。「生活を立て直さなくちゃだめよ。まず、ドラッグをやめなきゃ」 「私はうまく言い聞かせたつもりでしたが、実際には彼はごまかしていただけだったんです。彼はこういいました。『僕は有名すぎるから、クリニックに通うわけにはいかない。だから、自宅で努力するしかないな』」この頃、エプスタインの周囲に居た人たちの意見はほぼ似たようなものである。 「彼はいつでも何かの役をもらって演技しているようでした。1日中ね」「ブライアンはいつも格好を付けてましたよ。自然に振る舞うことなんて殆ど見たことがありません。彼はとても寂しい人間でした」 「どんな人間でも安定した人間関係を持ちたいと願っている。結婚とかね。彼の場合はそれが叶わなかった。でも寂しさと孤独は違うんだ。彼の場合は孤独というより、寂しかったんだと思うな」 |
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