Episord 45 情緒不安定 |
エプスタインの演劇に対する想いは、未だに消えていなかった。彼は、自ら演技することを諦めた代わりに、劇場のオーナーになることを思い付くのである。計画は、意外に簡単に実現する。 |
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だが、彼はそうしたことに気が付かなかった。大成功するには大きな入れ物でという感覚だったのだろうか。巨大なステージをこなすようになったビートルズと共にいて、彼の感覚は、麻痺していた処があったのかも知れない。 「ア・スマッシング・デイ」は1カ月上演されたが、エプスタインは殆ど姿を見せなかった。彼は、失敗が許せなかったのだ。 いつも成功し続けるなどということはあり得ないのだが。 ビートルズは大人になっていた。彼らは経験を積み、自信を持ち、ハッキリとした自分の考えを主張するようになっていた。しかし、言葉や態度では連れなくしても、相変わらずビートルズが一等信頼しているのはブライアン・エプスタインなのであった。それを彼が知らない筈はなかった。 彼はビートルズを全世界に知らせるという役目を終えてはいたが、それでご用済みというわけではなかった。ビートルズがさらなるステップを踏み出すためには、やはりエプスタインは必要な人間だった。 しかし、問題となったのはエプスタインの精神状態だった。彼は、あまりにも多くの事に手を出し過ぎていたのだ。そして、彼は誰にも相談することなく、全てを1人でやろうとしていた。 秘書のジョーアンは、エプスタインが大量の薬物に依存していることに気付いていた。彼はすでに“ひどい薬物常用者”だったと言う。興奮剤と鎮痛剤を交互に飲み、しばしば両方のバランスを失っていた。ジョーアンも同じ薬を飲んでいたと言うが、彼女が半錠飲むと2晩眠れなくなったという薬を、エプスタインは日常的に1錠そのまま飲んでいたという。 当時のエプスタインに対する彼女の言葉は驚くべきものだ。「興奮剤で辛うじて生きている」それが彼女の印象だと言う。 エプスタインの情緒不安定さは、周囲の人間なら、昔から、誰もが気づいていたことだが、秘書であった彼女によれば、薬物による影響がそれに拍車を掛けていたようだ。 「落ち着いた様子で、素敵で優しい笑顔を浮かべていたかと思うと、突然、残酷で横柄で傲慢になるんです」事はかなり深刻な状況になっているようだった。 |
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