Episord 44 MBE勲章叙勲 |
イギリス アメリカでの記録破りのコンサートツアーが続く。何処へ行ってもビートルズは、揉みくちゃにされた。その結果、彼らは混乱を避けるために、ホテルから楽屋へ移動するだけで、一切外出しなくなったのである。 |
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エプスタインはあるパーティで、酒に酔った映画俳優から、「MBEをもらいそこなった奴が居るぜ」などと言われたこともあった。ポールは記者会見のとき、MBEはミスター・ブライアン・エプスタインの頭文字だと語っている。 エプスタインはこれを大いに喜び、その後、何カ月にも渡って、友人達に、この話を繰り返し語っていたと言う。しかし、それほど喜んだということは、やはり、貰えなかったショックは、予想以上に大きかったと見るべきだろう。ビートルズの叙勲が話題になった1カ月後、エプスタインは黄疸にかかり、寝込んでしまう。普通、原因は疲労であるが、やはりショックによる深酒も原因したのではなかろうか。 リバプールで知り合いだったユダヤ人芸術家、ヤンケル・フェザーの言葉が思い出される。彼によれば、ブライアンの終生の目標は、典型的な英国紳士として認められることにあった。 「だから、ビートルズがMBEを貰ったのに、彼が貰えなかったのは、最大のショックの1つだったんだ」 1966年、ある変化が起きてきた。それまで、ビートルズの演奏の際には、ステージ脇で見守り、至福の時を堪能しているかのような表情のエプスタインだったが、この頃からビートルズとの間には険悪な雰囲気が漂うようになる。 エプスタインが楽屋に入ることが、歓迎されなくなった。初めは冗談半分のような感じだったが、やがてそれは深刻なことになって行く。エプスタインとしては、ビートルズが表紙になっている雑誌とか、話題になっている記事を見せて、話をしに来るのだが、その出鼻をくじくように、ビートルズは彼らの不満を投げかけた。元々エプスタインは論争が得意でない。 リバプール時代も、音楽関係者から反対意見を言われると、結局は怒りに顔を紅潮させながら席を立ってしまう、そんな人間だった。 エプスタインは「ニュー・ミュージカル・エクスプレス」のオーナー夫人と親しくしていた。感情豊かで、鋭い処のあるこのユダヤ人女性は、当時のエプスタインについて誰よりもよく解っていた人物かも知れない。ある夜、彼女はエプスタインの泊まっているホテルのバンガローから、マリファナの匂いが漂って来るのに気が付いた。彼女はエプスタインを叱った。 「ブライアン、何やっているの?あなたは有名人で重要人物なのよ。こんな処で捕まっていいわけ?」 部屋に入った彼女は、酒で赤くなった顔のエプスタインが、すすり泣いているのを見るのである。 「彼は深い悩みを抱えていたわ。その原因は、多分、彼がゲイでユダヤ人であるということだったと思うの」 「彼は孤独が怖いと言っていたことがあったわ。でも、たいていの場合、人間は自分で自分を孤独に追いやっているものよ」 |
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