Episord 39 熱狂 |
さて、再び、ビートルズの足跡を辿ることにしよう。 |
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この頃になると、ビートルズの人気はイギリス国内だけのものではなくなって来る。スウェーデン滞在中の5日間は、イギリス同様の大混乱となり、連日、マスコミは彼らをトップで扱った。ストックホルムでは、殺到するファンが警察の防壁をくぐり抜けステージに達し、ジョージは倒され、危うくファンに踏みつぶされるところであった。 ビートルズはこうした事態を把握していたのだろうか。彼らの取り巻きは、人気が出たというよりも、まずビートルズの安全を確保することに必死だった。ビートルズも、ファンに愛想を振りまいて殺される危険を犯すことは避け、何よりも逃げることを優先して考えた。 彼らが、自分たちの人気が途方もないものであると気付いたのは、イギリスに戻ってからだった。ロンドン空港は何万という空前の人波で溢れ、それぞれが歓声をあげて彼らの名を叫び続けた。まさに凱旋だった。 11月4日、プリンス・オブ・ウェールズ劇場で、「ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」が開催される。客の年齢層はずっと高くなり、入場料も普通の4倍。これはチャリティ・ショーでもあり、ある種、社交界の様相も呈しているものであった。 出演者は一流だけであり、名誉なことであった。この年の初めには、地方の劇場から締め出しをくらったことさえあったビートルズは、いつの間にか、一流の仲間入りをしていたのである。 何しろ、イギリス皇室がお見えになるわけであり、観客は、絶えず皇室を意識している。出演者は非常にやりにくい。客達は、拍手をするにも、まず、皇室の方々の反応を確かめてからということになるからだった。 ビートルズは、普段と変わりなく、演奏した。話題となったジョンのジョークも、一部に「生意気だ」という声があったが、おおむね愛すべきジョークとして受け入れられた。普段はまったく芸能記事を扱わない種類のお固い新聞も、彼らを取り上げるようになった。国会でも彼らに係わった事案が質疑された。 彼らの演奏のたびに動員される警官たちの“危険な勤務”について、大まじめに語られたのである。 やがて、十代の若者たちの長髪が目立ち始める。髪を切る、切らないで、学校や職場から追放される若者たちのことが問題にとなった。こうした“社会現象”を新聞が取り上げない筈がなかった。 批判的な新聞は、「これはヒトラーが作り出したのと同じような集団ヒステリーだ」と論じ、擁護派は、「陽気で、ハンサムで、愛すべきビートルズを認めないのはつまらない人間だ」と反論した。英国教会指導者の大会、国教会議でも、彼らに対する批難と擁護する意見が飛び交った。心理学者たちは、ビートルズがもたらす現象を論じることで多大な収入を得る。 もう、すべてがビートル、ビートルズ、ビートルズ。彼らについて語られぬ日はないという状況になって行くのである。 |
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