Episord 35 ビートルズからの誘い |
リチーの母親、エルシーは、離婚後、別れた夫から養育費を貰っていたが、それだけでは到底生活出来なかった。結婚前に色々な職歴のあったこの女性は、バーに勤めることにする。条件的にも良かった。 |
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やがてリチーはロリー・ストームのグループに加わった。素人バンドとして20歳のときに、彼は1つの決断を迫られる。ロリー・ストームが13週間もの仕事を決めたからである。見習い期間はあと1年残っていた。ここで辞めのは勿体ないと言うのが周囲の声だった。 「全くその通りだと思った。でも、会社の収入は週6ポンド、夜、アルバイトとしてバンド活動で得るのは週8ポンドだった。だが、今度の仕事は週20ポンドが約束されていた」 リバプールで、ロリー・ストームのバンドは最も有名なグループだったが、この13週間の仕事は特別なものだった。もしこれに成功すれば、さらなる活動の展望が開けたのだ。 ロリー・ストームの本名はアラン・ロールドウェル。いい仕事を得たことだし、これは有名になるチャンスだというので芸名を考えたのである。最初はジェット・ストーム。それが、ロリー・ストームになったのだった。 リチャード・スターキーも芸名を考えた。それまでにも彼はリングズと呼ばれていたことがあった。16歳で母に買ってもらった指輪をしていた彼は、祖父が亡くなったとき金の指輪を貰った。この当時は、4つの指輪をしていたのである。 スターキーはスターと縮められて呼ばれていたので、名前のほうも一音節に改められた。リチャード・スターキーは、この13週間のうちに、リンゴ・スターとなったのである。 この仕事を見事に成功させたロリー・ストームのグループは、リバプールでもっとも売れっ子のバンドとなり、最初に持ちかけられたハンブルグでの仕事を断っている。仕事が既に決まっていたのである。 だが、やはり彼らにしてもハンブルグ行きは魅力だったらしく、二度目の呼びかけには応じている。この時に、リンゴ・スターはビートルズと出会い、同じクラブで働いている。リンゴはビートルズに興味を示し、彼らの演奏に耳を傾け、わざわざリクエストまでしていたのはすでに述べたとおり。 ちなみに、リバプールでもリンゴはビートルズを見掛けたことがあった。みんなで、スチュアート・サトクリフにベース・ギターを教えている処だったと言う。 ハンブルグでの待遇は素晴らしかった。独立した部屋と車を与えられ、毎週30ポンドの収入が得られた。彼はこのままドイツに留まろうかとさえ考えたというが、この待遇ならばそれも無理からぬ処だろう。しかし、結局、彼はリバプールに戻る決心する。ロリー・ストームに居れば、またあの13週間の仕事がある筈なのだ。 そんな時、ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインから電話が掛かる。 ビートルズに加われば、本格的なプロとしてのデビューが約束されると言うのだ。いつからだと聞くと、今からだと言う。 その日は金曜日だったので、この三日間はギグに出てプレイし、翌週の月曜日からなら参加出来ると答えた。 土日の二日もあれば、ロリー・ストームも何とか新しいドラマーを探せるだろうと思ったからである。 |
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