Episord 30 クラウスとアストリット |
クラウスが、アストリッドに自分が見て来たことを話したのは、ビートルズを初めて見た翌日だった。クラウスは、興奮しつつ、その夜の体験を語ったのだが、アストリッドは興味を示さなかった。何よりも、クラウスが入ったという店のある地区は、好ましい場所とは思えず、露骨に嫌な顔をしたのだった。 |
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これはハーフ・シャドウというもので、初期のビートルズでは、しばしばこの写真が使われている。スチュアートに恋したアストリッドは、クラウスに英語を習い、独英辞典持参で話し合うようになる。そして1960年11月、出会って2カ月後には婚約するのである。この当時、アストリッドが感じていたビートルズの印象は、なかなか興味深いものがあるので紹介しよう。 「スチュは知的な人でした。それはジョンも認めていました」 「その次に、ジョンとジョージが好きでした。それからピート・ベストね。彼はとても内気なんです。本当は面白い人なのにね。あまり付き合いはありませんでした。その頃からピートはみんなに忘れられがちだったわ。もう一人前だったということね」 「ポールは近寄りにくい人でした。愛想はいいんですけどね。一番人気があってステージで何か喋ったりするのもいつも彼でした。ファンは彼がリーダーだと思っていたみたいです。でも、リーダーはジョンでした。なんといっても彼は強かったんです。肉体的な意味ではなくて、個性がね」 「ジョージは私のような人間には出会ったことが無かったらしく、そのことを素直に言ってました。彼は17歳だったんですものね。私は車を持っていて、カメラマンで、革ジャンパーなんか着ている変な女の子でしたからね」 ビートルズは、テディ・ボーイ風の男たちも含めたロックファンと、新たにファンとなった“実存主義者”達という2種類の支持を得たのである。当初の契約はすでに何度も延長されており、6週間だった筈のハンブルグでの生活も、すでに5カ月となっていた。彼らは、さらなる可能性を探り、もっと大きなステージに立つべくオーディションを受け、これに見事合格し、契約を取り付ける。 ところがである。ジョージが国外退去を命じられた。年齢が問題となったのである。彼が17歳であることをアストリッドが知っていたように、ジョージは特に年齢について気にしていなかったようだ。しかし、18歳以下の夜の労働は禁じられていたのだ。誰かが、ジョージの年齢についチクったのだろう。 ほかの4人は残り、新たな仕事場であるクラブで演奏するのだが、一晩ステージをこなしただけで、結局ハンブルグを後にしなければならなくなる。 ジョンとスチュアートは、それまで利用していた映画館の屋根裏から、既に新たなクラブに荷物を移し終えていたが、ピートとポールはまだだった。荷物を整理していたら、ピートが何処からかコンドームを見付け、それを壁に吊して燃やす悪戯をしていて通報されるのである。 「大した火事じゃなかったけど、僕等2人は警察に引っ張られ、国外退去を命じられた」(ピート)残るは、ジョンとスチュアートだが、ジョンは労働許可証を取り上げられ、やがてスチュアートも国外退去を命じられてしまう。 ジョージから始まったビートルズの国外退去命令の本当の原因が何であったのかは解っていない。そこに何らかの力が働いていたのかどうか。 いずれにせよ、さらなる成功を目指していた彼らは、あっと言う間に、失意のどん底に落ち込むのである。 |
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