Episord 29 ハンブルク |
何故ドイツか。初期のビートルズの活動が、ドイツ、ハンブルグを中心とした巡業だったことは、不思議な気がする。それなりの理由があるのかと言えば、きわめて曖昧な理由からなのであった。 |
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「ケンカはみんなくだらないことが原因だった。ハードな仕事にイライラしていたからなんだ。僕等はまだ、子供だったんだ」(ジョン) このクラブには、同時期にリバプールからもう1つのグループがやって来ていた。ロリー・ストームである。もともとハンブルグでの仕事は、最初、彼らに声が掛かったのだが、何しろ彼らは人気があった。先に契約していた仕事があったのだ。 ロリー・ストームのドラマーは、休憩時間になるとビートルズの演奏にじっくりと耳を傾けていた。時にはリクエストまでしている。ジョージは当時のことを覚えている。 「僕はロリーのドラマーの顔が気に入らなかった。髪に白いものが混じっていたりして、なんだか厭らしい奴だと思った。ところが、その厭らしい奴が、グループでは一等気のいい奴だった。リンゴだったんだからね」 カスバ・クラブのオーナーの息子、ピート・ベストは、リンゴのことを知っていた。ロリー・ストームもカスバ・クラブで演奏していたグループの1つだったからだ。だが、他のメンバーは誰も記憶していない。カスバ・クラブで演奏していた時には、自分達のことだけで精一杯だったのかも知れない。だから、ハンブルグでの出会いが、ビートルズとリンゴの事実上のファースト・コンタクトという事になる。 ビートルズはドイツに居ても、一般のドイツ人とは殆どふれあいがなかった。彼らが演奏していた地区は、大変な歓楽街で、まともな市民は近付かない場所でもあったのだ。だが、ふとした偶然で、彼らはドイツで初めて知的なファンを獲得する。 クラウス・フォアマンとアストリッド・キルヒヘアの2人だった。 クラウスはベルリン出身の医者の息子。ハンブルグで美術学校に入り、その学校で知り合ったのがアストリッドだった。彼女も写真を学んでいた。2人とも、この頃はすでに社会人だった。クラウスは雑誌社に勤めポスターを描いており、アストリッドはカメラマン助手として働いていた。2人は、学生時代から交際を続けていた。 ある晩、クラウスは映画でも見ようと歩いているうちに、地下から大きな音が聴こえるのに気付く。「何ごとかと思って、僕は降りていった。そういうクラブに入るのは初めてだった。地下の光景は凄かった。客はみんな革ジャンのロック・ファンだった」 後で考えるとその時演奏していたのはロリー・ストームだった。 クラウスは、ただただ驚き、そのまま腰を下ろして耳を傾ける。 「次に出てきた連中の異様な格好に、僕は思わず目を見張った。曲目は『スイート・リトル・シックスティーン』で、ジョンが歌っていた。それはロリーのグループ以上に感動的だった。僕は目が離せなくなった」 「どうしてグループであんな上手に、あんなに強力で風変わりに演奏できるのか僕には解らなかった。しかもステージ上で彼らは絶えず跳ね回っていた。それが多分8時間以上も続いたんだ」翌日、クラウスは、再びやってくる。 彼は、何とかしてビートルズと係わりを持ちたかったのだ。 |
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