Episord 23 ポールの友達

 ポールの父親、ジム・マッカートニーは、すでに述べたように若い頃にバンドをやっていた。だから、この人は息子にも音楽をやらせようとした形跡がある。最初は聖歌隊に入れようとした。
だが、ポールは、そのテストでわざとしわがれ声で歌った。拘束されるのが厭だったのだろう。短期間だけ、教会の合唱隊に入っていたこともあるが、長続きしなかった。
記すべきは、このあと叔父からトランペットを譲り受け、独習しているということだろう。ギターの前にトランペットをやっていたわけである。この時、早くも耳で聴いた曲は吹けるようになったと言うから、やはり父親の才能を受け継いだのかも知れない。

ジョンの仲間だったピート・ショットンは、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが初めて出会った時に居合わせた男でもある。だが、ピートは、初めて会ったポール・マッカートニーに特別な印象を受けていない。
なにしろ年齢が違った。子供の頃は学年が1つ違うだけでも、全く違う世界の住人に思えるものだ。ポールがジョンを大人だと思ったのとは逆に、ピートがポールを子供だと思ったのは当然だろう。だから、彼はこう言う。

「僕は嫉妬しなかった」

だが、これには「最初の頃は」という言葉が付くのである。ピートは、誰よりもジョンと深い絆で結ばれていると信じていた。まさか、こんな子供が自分のライバルになるとは予想もしなかったのである。
ジョンは、ポールに会ったとき酔っぱらっていた筈なのだが、ピートとは違って、強烈な印象を受けたようだ。
この頃のジョンは、考えるより先に行動を起こしていたようなところがあったのだが、ポールに会ってから、ぼんやりとして何も手に付かなくなったと言う。

「あいつはオレと同じくらいうまいぞと思った」

ポールの方は自分の方がうまいと思っていた。ジョンのギターは、まるでバンジョーを弾くような感じで、コードもあまり知らないようだと見抜いている。
それでも「悪くなかった」と言うのは、おそらく音楽的なセンスというような意味合いなのだろう。ジョンは、「何となく腹が立っていた」感じだった。それで、ポールという男をどう扱うべきかを考えるのである。

「僕はその時までボスだった。あいつと組んだらどうなるだろう。僕はいつもあいつを追いかけて行かなきゃならなくなる。でも、もの凄く上手だから、仲間にする価値はある」
負けず嫌いのジョン君としても、じっくり考えているうちに、自分よりポールがうまいという事実を認めないわけにはいかなくなったのだろう。

「要するに、僕は『トウェンティ・フライト・ロック』を演奏するヤツにいかれちまったんだ」

クオリーメンのメンバーになったポールは、早くも自分で書いた曲をジョンに聴かせている。彼は、ギターをやり始めた当初から、自分で曲を作ろうとしていた。
これはその当時としては、非常にユニークなことだった。これに触発された形で、ジョンも曲づくりを始めている。彼は、それまでにも既存の歌詞やメロディーを引用する形で、適当にでっちあげて歌っていたのだが、あくまでもそれはお遊びだった。
ところが、ポールは全くのオリジナルな曲をすでに何曲も作っていたのだ。もちろん、曲としては、まだまだ幼いものであったかも知れないのだが。

ジョンが影響されたと同時に、ポールもまた、ジョンに影響されていた。「ジョンと知り合ってよかった。彼は僕より2つ年上だったけど、僕等は同じようなことを考えていた」
2人は四六時中、一緒だった。学校をサボってまでギターの練習をした。場所はポールの家だった。父親が仕事に出てから、堂々と家の中でギターを弾いていたのだ。

明らかにジョンは、ポールに劣っていた。ポールは知っている限りのコードを教えた。ジョンには、もう誰がボスだとか、自分が年上であるというような意識はなくなっていたのだろう。

ポールは、ギターを弾き始めたとき、なかなか上達しなかった。自分が左利きであるにもかかわらず、普通に弾こうとしていたからだった。夢中になってギターにのめり込んだのは、ギターを左利き用に改造してもらってからのことだ。
この時、ジョンはポールに教わったコードを家へ帰ってから鏡の前で確認しながらまた練習したという話もあるのだが、それはどうも嘘くさい。その場で鏡を利用すればいいのだから。

ピート・ショットンは敗北感を味わっていた。少なくともバンドの一員としては、居場所が無くなった。自分の音楽的な才能についても見切りがついたのかも知れない。
ジョンとポールの中に入って行くことは、もう無理だった。アイバン・ボーンは相変わらずジョンの友達だったが、最初からほ殆ど音楽を通じては係わっていなかったようだ。ジョンの仲間で唯一勉強ができた彼は、ポールと同じ学校だったから、学校ではポールとも交流が続いていた。

ジョンとポールの蜜月時代は続くのだが、やがてポールに、1つの考えが生まれてくる。もう1人、是非、バンドに入れたいと。
自分と同じインスティチュートの仲間に心当たりがあったのだ。自分よりも年下だったが、なにしろギターが巧かった。
やがて、アイバンは面白からぬ心境を味わうことになる。 ピート・ショットンと同じく、自分こそジョンの一番の親友だと思っていたのであろう。
ポールをジョンに引き合わせたのは自分だというのに。
アイバンは、ポールがジョンに引き合わせた男を見て、なんてことだと思った。その男はポールよりも若かったが、見たところテディボーイそのものだったからだ。

「初めてクオリーメンの連中と会ったのは、彼らがガーストンのウイルソン・ホールで演奏していた時だった。ポールが遊びに来いと誘ってくれたんだ。何処かのバンドに入りたいと思っていた時だったから、僕は出かけて行った。ポールの友達だというので、僕はジョンに紹介された」

「その夜、違うバンドにとてもうまいギタリストがいた。ジョンが、あのくらい弾けたらグループに入れてもいいといった。そこで僕は『ローンチー』を弾いた。
ジョンは、よし、入れてやるって。それ以来、『ローンチー』はよく演奏したよ。バスで遠出するときなんかにジョンがよく言ったものさ。『ローンチーをやってくれよ、ジョージ』」

ポールの友だちのジョージ、つまり、ジョージ・ハリソンである。

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