Episord 13 ブライアンの苦悩と喜び |
ピート・ベストが突然脱退した時、そのニュースはすぐに広まった。ボブ・ウーラーとエプスタインとの間に、激しい言い合いがあったことも知られている。 |
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ケンカがおきても、警察が来ないことが不思議だった。 一体どうなっているのか、彼には皆目見当がつかない。 おそらく、エプスタインは、こうした本格的なケンカを見るのが初めてのことだったに違いない。ケンカが起きる度に、警察を呼んでいては、次のショーが成立しないということもわからなかった。 演奏会場が「許可」を得るためには、関係方面に申請をするのだが、もし、前回、暴力があったなどということがわかれば、問題が複雑になり、スムースに営業許可がおりなくなる。だから、警察を呼ぶということはあり得ないのだ。 そういう常識をエプスタインは知らなかった。ひたすら彼は、ビートルズが受ける扱いの酷さに憤慨するのだった。 一方で、ビートルズが、エプスタインに向ける言葉は、相変わらず辛辣だった。第三者から見れば、エプスタインがそれに耐えていることが不思議に思えるほどだったのである。普通の人間ならば、とても耐えられないような言葉にも、彼は我慢できた。 何故なら、彼は誰よりもビートルズを素晴らしいと思い、崇拝すらしていたからだ。彼は誰よりもビートルズを愛していた人間だった。 やがて彼は、ビートルズ流の毒を含んだ、ひねりの利いた言葉のセンスを楽しめるまでになる。 彼は、一見どうしようもないただのチンピラにしか見えない若者達が、実はとてつもなく鋭い感性を持ち、頭の回転も人一倍早く、一目で真実を見抜く洞察力を持っている素晴らしい人間達だということに気が付いたのである。 当時のエプスタインをクラブのオーナーが語っている。 「彼はステージ脇で、ビートルズを見つめ、楽しくて堪らないという様子でした。彼は、すべての音、すべての瞬間を逃すまいとしているようでした。彼はいかにも上品で物静かで、まるで俳優のようでした。 でも、彼はできることなら自分もビートルズになりたいと思っていたのでしょう。見込みはありませんでしたけどね」 ブライアン・エプスタインは“5人目のビートルズ”として精力的に活動を続ける。 |
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K M |