Episord 11 ピート・ベスト解雇 |
当時のイギリスで、オリジナル曲を演奏するグループは全く居なかった。すでに成功していたクリフ・リチャードも与えられた曲を当然のように歌う、それが普通の姿だった。 |
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エプスタインは、メンバーの中で最もハンサムで、女性ファンも多い彼が居なくなるということを考えてもいなかった。ジョージ・マーティンの言葉はまさに衝撃だった。 後に、ジョージ・マーティンは語っている。 「彼はジェームス・ディーンのような憂いを含んだルックスだったけど、明らかに他の3人とは違っていた。ユーモア感覚やカリスマ性というものを全く感じなかった。何も意見を言わず、黙ったままだった。一等悪かったのは躍動感が無かったことだ。グループはスウィングしていなかった」 「彼はバンドの重要なメンバーとは言えなかった」 「私の発案は、彼を解雇するきっかけを与えただけだった。ビートルズはやがて彼をクビにするつもりだったんだ」 これも意外な言葉だが、エプスタインが伝えたこの驚くべき知らせに対し、異論をはさむものが無かったのは事実なのである。むしろ、“自分達の感覚が間違っていなかった”ということをジョージ・マーティンによって確認出来たといった感じだったようだ。 彼等の感覚では、ピート・ベストは仮のメンバーでしかなかったのである。その証拠にすぐに新たなメンバーとなるべき人物の名を挙げているのだ。 翌日、ジョンは、エプスタインがピート・ベストを解雇してくれれば、代わりのドラマーを引き抜いて来ると告げる。エプスタインは、思いも寄らぬ、気の重い役割を果たさなければならなかったのである。 1962年8月16日。ピート・ベストはオフィスに呼びつけられる。エプスタインは何度も彼を呼び寄せていたから、ピートは何の躊躇もなく現われた。正式なマネージャーになるまでの間、エプスタインとグループとの仲立ちをしていたのはピートだったからである。 エプスタインの態度が、いつもとまったく違っていることにピート・ベストはすぐに気が付く。そしてエプスタインが切り出した言葉は、ピート・ベストを打ちのめした。彼は、ビートルズが直接そのことを伝えなかったことを悲しんだ。特にジョンが、面と向かって解雇の理由を言ってくれなかったことを今でも残念に思っていると言う。 |
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