Episord 10 スタートライン |
運命の不思議はここでもあった。もしも、その時、違った判断をしていれば... |
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ジョージ・マーティンは、まだ36歳であったが、すでにピーター・セラーズという喜劇の大スター、さらに日本でも大ヒットした映画「007シリーズ」の主題歌「ロシアより愛をこめて」を歌うことになるあのマット・モンローのレコーディングを担当するという、EMIでもかなりの実力者として認められている人物であり、落ち着いて、自信に満ちた態度は、少なからずエプスタインを圧倒するものがあった。 しかし、全てがいいように回り始めていた。この時のエプスタインの印象を後にジョージ・マーティンはこう語るのだ。 「彼はごり押しするようなところがなかったよ」 さらに、エプスタインにもビートルズにも、極めて幸運なことがあった。 ジョージ・マーティンは、確固たる地位を占める実力者だったが、唯一、若者をとらえるマーケット向けのアーティストを抱えていなかったのである。 「よし、彼らをロンドンに連れてきたまえ。テストしてみよう」 エプスタインは、誰もいなければ、その場で躍り上がったのかも知れない。けれども、彼は、持ち前の優雅な態度でニッコリと微笑んだのだった。 1962年5月9日。アビーロードのEMIスタジオを出たエプスタインは、その足でウエリントン通りにある郵便局に向かい、そこから、このビッグニュースを母親に電話で伝えている。 さらに、ハンブルグにいるビートルズ、さらに「マージー・ビート」のビル・ハリー宛には電報を打った。あっと言う間に、このニュースが広まったことは、言うまでもない。 6月4日、マンチェスター・スクウェアのEMIのオフィスで、ジョージ・マーティンは初めてビートルズに会った。エプスタイン同様、上品な雰囲気を持つこの人物は、ビートルズから強烈な印象を受けた。彼は、すぐ、ビートルズに「非凡な個性とカリスマ」を感じたという。「沸き出るようなユーモア」にも魅了されたというが、おそらく、ビートルズには、時と場所を十分心得た会話をするだけのクレバーさがあったからであろう。 6月6日、テストが終わった後にジョージ・マーティンは、こう言ったのである。 「君たちが気に入ったよ。一緒にレコードをつくろう」 |
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H J |