Episord 9 橋渡し |
当時の状況をよく知るボブ・ウーラーによるエプスタイン評を聞いてみよう。 |
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地道なエプスタインの戦略は、次第にビートルズのギャラを上げていった。相手が唖然とするような高額な要求を当然のようにする。それでは高過ぎると、低めの額を提示されても、受けなかった。すでにドイツでの実績があったビートルズは、このエプスタインの手腕により、当時としては相当高額な契約を結ぶことに成功した。 1962年4月13日から5月31日までの7週間、ハンブルグでの演奏契約は、“巨額”といってもいい取り引きとなった。彼は、ビートルズが特別なものであるというイメージを創り出して行く。それまで汽車やフェリーで行っていたドイツへは、飛行機で行くことにした。ギャラも上がり、飛行機での旅。ビートルズがやる気になるのは明らかだった。 ブライアンは、ロンドンのオックスフォード・ストリートのHMVレコード店を訪れた。彼は、これまでのようにビートルズがバックバンドとして演奏している「マイボニー」を聞かせるだけでは効果が無いことにやっと気づいたようだった。 デッカのオーディションを受けたときに録音したテープを、アセテート盤のレコードにコピーしてもらうために、やって来たのである。担当者のロバート・ボーストとは知り合いだった。 ボーストは、所属するEMIですでにビートルズが断られたことを知らなかった。それで彼は、部下の録音技師ジム・フォイに、これを聞いてみて、もしよかったらレコード部門の人間にあたってくれと頼むのである。 ジム・フォイは、いい耳を持っていた。彼はテープを聞いて、これは素晴らしいと感じたのである。ほとんど無名のグループに対して、力になってくれそうな人物は..... そう考えた彼は、同じHMVの4階にオフィスを持つシド・コールマンに電話をする。 エプスタインは、すぐにテープを持参し、コールマンにビートルズを聞いてもらう。コールマンは、EMIの音楽出版部門の責任者だった。 「これをもう、誰かのところへ持っていきましたか?」 「あらゆるところへね!!でも、まだどうにもなりません」 エプスタインが正直に答えると、コールマンはこう切り出した。 「ジョージ・マーティンはどうです?」 「ジョージ・マーティンって誰です?」 ビートルズが世に出るに際し、絶大な力を発揮することになるあのジョージ・マーティンの名前を初めて耳にした瞬間である。 |
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