Episord 8 立ち塞がる壁 |
エプスタインの発想は、1961年当時としては誰も考えつかなかったものが多かった。彼は自分のレーベルのレコードを出したいと考えた。例えば「NEMSレーベル」のレコードという意味だ。 |
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一縷の望みを託して、エプスタインは翌日、ミーハンがいるスタジオを訪れる。だが、結果は最悪だった。 30分待たされたあとで、ミーハンはこう言ったのである。 「エプスタインさん、私は非常に忙しい人間です。あなたのご希望は大体解っています。ですから、そのビートルズとかいう連中のテープを作る日時を決めてくれますか?秘書に電話して予定が空いているか確認して下さい」 ブライアンは、敗北感に包まれたままロンドンを後にする。トニー・ミーハンのアドバイスは辞退すべきだと考えた。 どのみち、デッカがビートルズを歯牙にもかけていないことは明らかだったからだ。エプスタインはビートルズに最悪の結果を知らせねばならなかった。 ジョン・レノンは「オーディションの時の選曲が間違っていた。今後、音楽に関しては口出ししないでくれ」と、エプスタインに告げたのだった。 だが、エプスタインはくじけなかった。ビートルズという存在に敢然として口出しすることになるのである。強烈な個性の持ち主である彼らを“教育”することを考えたのである。それは不可能なことに思われた。 彼らは、いつも革ジャンスタイルであり、ステージ上では勝手なおしゃべりをし、客と一緒に酒を飲んだり、たばこを吸ったりというのが、ごく普通の姿だった。エプスタインはそれを改めるように何度も注意したが、一向に改まらない。 ここはなんとしても、彼らのリーダーを味方にする必要があった。しかし、見たところ、ビートルズはワンマンバンドではなかったのだ。 エプスタインは考えた。ビートルズは、ジョンがグラマースクール時代に結成したクォリー・メンから発展したグループだ。ポールをグループに入れたのもジョンである。ジョンこそがリーダーの筈だ。 エプスタインは、ジョンを自宅に招き説得する。音楽には口を出さない。しかし、ビートルズが成功する為には、もっと小ぎれいな格好をしなければならない。結局、渋々という感じではあったが、ジョンはこれを受け入れるのである。 人々は変身したビートルズを見て仰天する。 「ジョン・レノンは反抗心の旺盛な奴だったけど、エプスタインに従ったんだ。乱暴な行動やラフな格好が、彼らの成功にプラスにならないことをどうやって説得したのか、謎だね。ジョンがリーダーでボスだったことは間違いないよ。 ポールはメンバーの1人に過ぎなかった。でも、本当にエプスタインがどうやってレノンを説得してスーツを着せたんだろう」 エプスタインの売り込みがまた続けられた。だが、レコード会社からはいい反応はない。 そこで彼は、BBCラジオのオーディションを受けさせる。 ビートルズは見事に合格。エプスタインは、彼らに“事が進展していること”を示す必要があったのだ。 1962年夏、ついにエプスタインは、マネージャーに専念することを決意する。新会社NEMSエンタープライズを設立し、これを拠点にして、本格的に活動しようと。 だが、そろそろ、ビートルズは、現状にウンザリしてきていたのだった。 |
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F H |