Episord 7 晴れてマネージャーに |
地元で尊敬される対象として知られていたNEMSの経営者エプスタインが、“粗野な若者たちの音楽”に係わったということは、リバプールではセンセーショナルな“事件”となった。 |
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普段の彼は物腰が丁寧で、物静かであり、気弱な印象さえ与える人間だったが、仕事に熱中している時は、まったく違った。 彼は何よりも自信に満ちていた。自分がこれだと思うものを発見すると、それを手に入れる。そうしていれば、人々が殺到して来るというのが、これまでの成功パターンであった。そして彼は、今また、その方法でビートルズを売り込もうとしていた。 だが、旧弊な考え方にしがみついているイギリスのレコード業界という大きな壁が彼を待ち受けていた。 彼は、EMIレコード・ロンドン本社マーケッティング部長に会い、「マイ・ボニー」を聞かせている。あのトニーシェリダン&ザ・ビート・ブラザースという名前で出されているレコードである。そして言うのだった。 「バックグループをよく聞いて下さい」 このレコードは、私も何度も聞いているが、バックグループとしてビートルズが居るというだけで、これと言って特徴があるとは思えない。このレコードでビートルズの素晴らしさが解るとは到底思えない。 だが、エプスタインは、この方法をレコード各社に対して同様に行っている。 「バックグループをよく聞いて下さい」 自分が素晴らしいと思うグループなら、その良さがわかる筈だという自信からなのだろうが、これは作戦としてはどうだったのだろう... 当時を回想して当時の部長ロン・ホワイトは語っている。 「ソロシンガーが前面で歌っているのに、伴奏に耳を傾けるのは難しいものです。判断を下すことはとても無理でした。でも、自分のアーティストに夢中になっているブライアンは、そんなことでは引き下がりませんでした。革ジャンを着たビートルズの写真を出して、彼らがどんなグループなのかを見せてくれました。彼は自信満々で、余裕たっぷりでした」 彼は、当たり障りのない受け答えをして、エプスタインを帰すのだが、エプスタインは大成功だと考えていた。 そして、次には「リバプール・エコー」にコラムを書いている人物にビートルズを取り上げてくれるように頼んだ。 回答は、悪くなかった。 だがそれは「ビートルズが契約を獲得してレコードをリリースしたら」地元の活躍ぶりを書きましょうというものであった。エプスタインの仕事は、まだ始まったばかりだった。 なすべきことは山のように控えていた... |
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