Episord 6 ビートルズとの出会い |
当時、ブライアン・エプスタインの個人秘書だったアリステア・テイラーの前歴は、材木会社の事務員であった。 |
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マネージャーの申し出については、ピート・ベストがそっけなく断っている。この時の応対は、殆どピートがしたと伝えられている。それでも、ブライアンは粘り強く語り続けた。ビートルズは、はっきりとした答えをしなかった。 曖昧な、とりとめもない話をしたのちに、「もう一度会いたい」とブライアンは告げるが、ビートルズは慎重だった。 まるでどこかの政治家のように、帰って検討してみるとだけ答えるのである。 彼らが慎重になるには、それだけの理由があった。ビートルズは、アラン・ウイリアムというプロモーターと契約して、ハンブルグ等で仕事をしていた。「マイ・ボニー」はその時の仕事の1つだったのだろう。だが最後に口論の末、契約を打ち切っている。当然の権利として主張した手数料をビートルズが拒否したことで、両者には決定的な距離が出来てしまっていた。 あのエプスタインが、ビートルズにただならぬ関心を持っているという噂は、リバプール中に広まっていた。アラン・ウイリアムも、そのことは聞いていたが、突然、その噂の主が訪ねて来たときには驚いた。 エプスタインは、すでにウイリアムがかつてビートルズのマネージャーだったことを知っていた。その上で、自分は彼らのマネージャーをしたいのだと告げた。ウイリアムは、一例として彼らが時間にルーズなことを語るなどし、翻意を促している。だだ、それは無駄なことだとわかった。エプスタインが真剣だったからである。エプスタインは、すでにボブから、聞いていたのだ。実は、ビートルズがマネージャーを必要としているということを。 一方で、エプスタインは心配していた。今や、自分がビートルズに接近しているということは評判になっている。会社を経営し、高級車を乗り回している人間が彼らに近づくということは、不可解な、悪いイメージを与えるのではなかろうかと。それで、彼は彼らの家族に誠実に対応し、安心させることが重要だと考えた。 妻を失って男やもめのポールの父は、真っ先にエプスタインの魅力に惹かれた。その誠実さ、いかにも優雅な挙措は、またたくまに彼の気持ちをとらえた。エプスタイン家に招かれると、ブライアンの両親であるハリーとクイーニーとも意気投合している。ジョンの叔母のミミも、ブライアンの誠実さに惹かれた1人である。 彼が成功したユダヤ人実業家だと知った彼女は、ジョンが1人前の人間になるという希望を託したのかも知れなかった。エプスタインは、何度も彼女を訪ねたが、そのたびに鉢植えの花を持って行くことを忘れなかった。 やがて、ジョンは、エプスタイン家に頻繁に訪れるようになり、ブライアンとビートルズの将来について語り合うようになる。そしてこの時、ブライアンは、ビートルズのイメージをもっと清潔なものにすることをジョンに納得させている。 さらにエプスタインは、ビートルズが楽器を購入していた店に行き、その支配人から彼らが借金をしていることを知ると、それらを全て支払った。おそらくブライアンは、こうした1つひとつの問題を解決して行くことに大きな喜びを見い出していたに違いない。今や彼の最大の興味の対象は、ビートルズだったからである。 |
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