Episord 5 伝説の真実 |
エプスタインの芸術的嗜好は、基本的にはごく地味なものであった。しかし、レコード店経営をするようになると、当時ブームとなったジャズのレコードを輸入販売するようになる。当然、彼は、そうした音楽も聞き込む。 |
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すぐに解るだろうと思ったそのレコードについては、全く情報が得られなかった。手掛かりすら無いのだ。しかし、これで諦めるブライアンではなかった。 利益のことを考えれば、たった1枚のレコードのために時間と労力を費やすのは無駄なことであった筈だが、彼は仕事に関し、妥協は一切なかった。 再び訪れたレイモンド・ジョーンズが、ドイツで出されたレコードの筈だと伝えると、ブライアンは、わざわざドイツ・グラモフォンに電話する。ビートルズのレコードは無かった。 しかし、リバプールのグループのレコードを扱っているかという問いには回答が得られた。「マイ・ボニー」というタイトルであったが、グループ名はビートルズではなく、「トニー・シェルダンとビート・ブラザース」だった。しかし、ブライアンは、それに間違いないと確信し、最小オーダー数である25枚を注文する。 ブライアンは、何かを感じ、レコードが入荷すると、わざわざ店頭に手書きの表示をした。 『ビートルズのレコード入荷』 なんと数時間のうちに、レコードは完売。その日のうちに、50枚を追加注文すると、入荷して3日後には、すべて売り切れたのだった... と、“伝説”では、そのようになっている。だが、この話はまったくの作り話だという。誰あろう「マージー・ビート」のビル・ハリーがそう語るのだ。 ブライアン・エプスタインの回想録では、レイモンド・ジョーンズという若者がやってきて問われるまで、彼は、「ビートルズ」という名前を聞いたこともなかったということになっているのだが、ハリーによれば、すでに「マージー・ビート」はビートルズの記事を何度も一面で扱っており、ブライアンが知らなかった筈がないというのである。なるほどそう言えばそうである。 あの仕事熱心なブライアンが、店頭に置けば、瞬く間に売れてしまう「マージー・ビート」に全く関心がなく、読みもしなかったとは到底思えない。この辺りはどのように解釈すべきなのだろう。ブライアンは、ビートルズを自分の描いたストーリーのまま、歴史に残したかったと言うことなのだろうか。 ブライアンは、ビル・ハリーからビートルズのことを聞くと、早速、従業員のアリステア・テイラーと共に、彼らが出演しているというキャバーン・クラブに出掛けている。 そこは何と、NEMSから歩いてわずか3分ほどの距離にあるビルの地下だった。 1961年11月9日、午後12時30分頃。 ブライアン・エプスタインとビートルズとの最初の出会いである。 |
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