Episord 3 俳優を目指して |
ブライアンは、信じられないほど物事に熱中するが、また同時に冷めやすい性格だった。なんにせよ、成功するか、満足した瞬間、急に情熱を失ってしまうのである。この性格は、もしかしたら、彼の人生において最後までつきまとっていたものなのかも知れない。 |
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そう思ったわ。彼にとってそれはきっと、治療みたいなものだったのね。見てる方はちょっと怖かったけど」 だが、次第に、ブライアンは酒に溺れる生活となる。 演劇学校の生徒たちは、コーヒーを飲む程度であり、酒を飲むブライアンは異質な存在だった。ブライアンとガールフレンドはかなり親密だったのだが、やがて、酒のことで彼女は離れて行く。 しかし、付き合っている間、彼女はブライアンが“普通の男”だと信じて疑わなかった。ブライアンはどうしたかったのだろうか。内面の混乱を抱えたままで、彼は酒に溺れた。出来ることならば、彼女に自分の秘密を打ち明けたかったのだろうか。演劇学校の雰囲気も次第に彼を苛立たせていった。学校嫌いだったブライアンは、22歳にもなって、「生徒」として振舞わなければならないことに耐えられなかったのである。 1957年秋の新学期が始まっても、演劇学校にブライアンの姿はなかった。ブライアンの移り気は、ようやく納まり、このままリバプールに留まると両親に告げたのである。 1人ロンドンで過ごした生活は、まったく無意味なものだったのだろうか。実家から離れて自分を見つめなければならなかったこの時期に、クラシック一辺倒だった彼は、アメリカ人歌手のリトル・リチャードになじんでいる。 ブライアンと“ステディ”な関係だった女の子、ジョアンナ・ダナムはその後女優として成功したが、ブライアンは、彼女の公演初日には必ず花を届けたそうだ。 ある変革が起ころうとしていた。1950年代後半になると、テレビ、洗濯機等々の電化製品が急速に一般化してきた。ブライアンの父ハリーは1つの決断をする。彼はNEMSという名の店を出し、この新分野に進出することにしたのである。NEMS…つまり、ノース・エンド・ミュージック・ストアーズ。 そしてブライアンは、レコード部門の責任者となるのである。例によって、ブライアンの能力はいかんなく発揮され、またたくまにレコード部門は黒字になる。ハリーはさらに事業を拡張し、3階建ての2号店をオープン。 ブライアンがこの「NEMS2号店」を任されると、1年もしないうちに、その地区で一番の有名店となる。身だしなみの良い客に混じって、いかにも見すぼらしい感じの革ジャンを着た若者たちが、目につくようになった。 彼らは、新譜レコードを試聴するだけで、ほとんど買う気がない様子である。ブライアンには目障りな客であったが、女店員によれば、そうした若者たちはポップスについて非常に詳しく、特にじゃまにはならないという。 ブライアン・エプスタイン、このとき27歳。彼は、ポップスの世界にも目を向けてみようと考え始めるのである。 |
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