最後にビートルズに加入した"遅れて来たビートルズ"とも称されるリンゴ・スター。その交代劇の真実を知る者は、
 今やポールだけ。ここに来て彼の存在を自分なりに考えてみたいと常々思っていました。       Episord 7
 よく知られているように、リンゴは左利きである。ただし、文字や絵を描く時は右手を使うから、正確に言うならば両手使いと言うのかも知れない。その左利きながら右利きのドラム配置で演奏するものだから、彼のドラミングは一般の右利きドラマーには出せない独特のニュアンスがあるという。
これは私の知り合いで、リンゴを崇拝するドラマーから昔聞いた話だが、リンゴのドラミングは右利きのドラマーが幾ら模写したとしても模写し切れないのだそうだ。その彼が長年挑戦し続けた末に出した結論は、左利き用にセットして右で叩くことしかないと言うものだった。それほどリンゴのドラミングはイレギュラーなのだ。
その上、彼は叩きながら唄うことを課せられた。「I Wanna Be Your Man」「Boys」「Match Box」などなど。ドラムを叩きながら、それもシャッフルと呼ばれる跳ねたリズムの楽曲を唄うなどとは、相当な余裕がないと出来るものではない。シャッフルナンバーとしては「Honey Dont」や「Match Box」などがある。
「What Gose On」はその最たる曲で、194BPMの高速シャッフルを2分半ノンストップで叩き続ける。アマチュアなら2分も掛からず撃沈するだろう。そしてその上に唄うなどとは、プロのドラマーにして容易なことではない。(そう言うとスタジオ録音だから歌は後入れしたのでは?と疑う向きもあるだろうが、あの曲を良く聴くと叩きながら唄った仮歌の痕跡がある。
特にエンディングを聴けば判る)あのTOTOの「ロザーナ」でさえ170BPM辺りであるから、少なくともロザーナのハイハットテンポくらいは余裕で叩けないと絶対に無理なテンポだと言える。それを利き手でない右手で刻んでいるというのであるから更に信じられない。そこは両手利きの強みなのかも知れないが、それにしても歌まで歌えるとは、相当の余裕がないと出来ないことだ。ビートルズの中で楽器演奏に余裕があったのはポールとリンゴだ。ポールの天性によるベースの演奏は見事で殆ど手元を見ることなく演奏し、そして独特のステージパフォーマンスを見せる。一方リンゴもドラムを叩きながら唄い、ある時は頭を大きく振りながら演奏する。この当時、そんなドラマーは居なかっただろう、リンゴはこの時既に見せるドラムというものを意識していたのだ。
そういう技術的な部分もかなり高水準だが、リンゴのドラミングと言えば、何といっても引き出しの多さであっただろう。
細かく言うと各曲で様々な特徴があるが、一番解り易いのは中期に差し掛かった頃、アルバム「Revolver」辺りの頃が顕著である。リンゴ本人が最高のプレイだったと言わしめたのが「Rain」であるが、確かにあのドラミングは凄まじい。
ドラムという楽器がこれほど格好良く、楽しいものかと思い知らされたドラムアレンジと演奏である。それとポールのこれまた凄まじいベースと相まって何とも言えぬ迫力を醸し出している。曲中を駆けめぐるような、それもかなり音を前面に押し出したドラミングであるにも拘わらず、まったくジョンのボーカルを邪魔していないのが解るだろう。これが前述したボーカルを食わないドラミングなのである。かなり上手いドラマーが再現している動画があるので参考にして頂きたい。彼はリンゴの叩く手順(左右の手使い)も全てコピーしている。→コチラ
こういうドラムパターンはどうやって生み出されたのか?恐らく直感以外の何者でもないだろう。誰にドラムを習ったわけでなく、誰を手本にしたのでもない、常に自身で培ったリンゴのドラミング。取り立てて音楽の知識に秀でていたわけでもなく、楽譜も読めなければドラムのタブ譜も読めない。それどころか文字の読み書き、話し言葉の文法さえ怪しいリンゴが、自分の感性から生み出したドラミングなのである。正に天然のドラム(笑)いや、天性のドラムと称するべきだろう。
ジョンに次はこういう曲だからと聴かされて、軽く首を振って聴き入るリンゴ。大体の構成はあっただろうが、殆どはリンゴ自身に任せられてたのではないかと考える。当たり前だがその曲は以前からある曲でなく、今初めて聴く曲なのだ。そう考えるとさらに凄いことであるのがよく解る。
この後の「Sgt Pepper's〜」の「Good Morning Good Morning」など狂気の沙汰だ。あの恐ろしいまでの変調の曲をジョンに聴かされてから自分なりに考えて叩く、それもこの頃は既にベーシックトラックとして先にリンゴだけの録音をするのである。リンゴはこのベーシックトラックをたった8テイクで終えたという。正に神業である。ジョンにしてもリンゴにしても楽譜が読めるわけでなく、返ってそれが功を奏したのか、直感的に「こんな感じだけど、どう?」という風に出来てしまったのではないだろうか。
「Rain」や「Good Morning〜」に限らず、ビートルズの楽曲で名曲と言われる楽曲では必ずリンゴが良い仕事をしている。リンゴは間違いなくビートルズの楽曲のクォリティを左右する重要な存在なのである。いや、正確には楽曲が良ければ、必ずリンゴは素晴らしいドラミングを披露する。リンゴは言うならば水なのだ。水はそれ自体では形を成さないが、器次第でどのような形にもなる。リンゴは中途半端な知識やリスペクトが無かったが故に、あれだけ自由にドラムが叩けたし、またそれだけにバラエティに富んだ演奏が出来たのだと思う。ジョンはクオリーメン時代にポールを見てコイツだ!と閃いたのと同じく、リンゴのドラムを聴いた瞬間、同じ思いを感じたはずだ。まるで魔法のランプ...そしてジョンは、その魔法のランプを手に入れたのだ。
ジョンは当時を振り返ってこう言ったそうだ「僕が何かやり出すとリンゴはすぐに感じを掴んでくれ、ぴったり嵌るんだ。あれだけ長く一緒にやってるとね。それがバンドってもんだ。」

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