最後にビートルズに加入した"遅れて来たビートルズ"とも称されるリンゴ・スター。その交代劇の真実を知る者は、
 今やポールだけ。ここに来て彼の存在を自分なりに考えてみたいと常々思っていました。       Episord 5

 ところでリンゴの実際のドラムの腕前だが、どのくらいのモノだったのだろうか?ここからは彼のドラムの技術などについて語って行く。
昔からの話だが、特にビートルズ解散以降のバンド世代が活躍するようになってからのリンゴ・スターのドラマーとしての評価は低い。
「リンゴのドラムは下手」ビートルズファン以外に限らず、ファンの中にもそう言う輩が居たことは否めない事実だが、何を持って下手と言ったのか、それは恐らく時代背景にあると思える。
ハードロックが台頭し始めた70年代の手数の多いドラマーなどを見て、単にリンゴのドラミングがくすんで見えたのだろう。しかし、リンゴのドラミングは派手さはないが、そういったスーパードラマー列伝に入るようなタイプではない。もっと奥深い物があるのだ。
若かりし頃の私同様、一般的にはビートルズのメンバーの才能は、ジョン>ポール>ジョージ>リンゴであり、3人の天才と1人の凡才のように囚われがちだが、実際はそうではない。
ジョン、ポールの天才は確かにそうだ。だが、ジョージの才能は認め

るものの、天才と呼ぶのは過大評価だ。3人めの天才は、誰あろうリンゴなのである。何故ならリンゴのドラミングなくしてビートルズのサウンドは成立しないからだ。リンゴが加入するまでの、そうピート・ベストの時代の音源を聴けば一聴瞭然で、その頃のサウンドは全くもって物足りなさを感じる。ピートの在籍時にデッカレコードのオーディションを受け、落とされたワケだが、この世紀のミスジャッジと言われた逸話も、あながちデッカレコードの担当プロデューサーの聴く耳が無かったからと笑えないかも知れない。何故ならビートルズを蹴って、オーディションに合格させたブライアン・プール&トレメローズは後にディブ・クラーク5との競作を制し「Do You Love Me」でみごと全英チャート1位の座を手にしているからだ。
一方のビートルズは、リンゴを外して録音した「Love Me Do」がスローテンポで単調に終始し、万人受けしなかったのか17位に留まっている。「Love Me Do」は傑作には程遠く、決してビートルズサウンドを確立していない。確立されるのは次曲「Please Please Me」からである。未だにデビュー曲の「Love Me Do」に違和感や疑問を持つファンが少なくないのも、こういう事が原因しているのかも知れない。
1964年から導入された4トラックレコーダーにより、各自の担当楽器で一斉に演奏しなくても良くなったことに起因するのが、ジョンやポールによる多重録音である。特にポールはこれを大いに喜び、「涙の乗車券」「タックスマン」「アナザー・ガール」などのギタープレイまでジョージから奪い取ってしまう。更にはリンゴのドラミングにまでクレームを付け、リンゴの一時脱退騒動を引き起こすが、その原因となった「Back In The U.S.S.R」更には次の「Dear Pludence」のドラムまでを自分で叩いてしまうのである。しかしながら、ポールのそれは悪くはないが、やはりビートルズのサウンドではない。
ボーカルパートさえ無ければ、ジョン、ジョージのギターやポールのベースが居なくとも代用が利き、そのサウンドに大きな違和感無く済ませられるが、ことドラムに関してだけはリンゴでなければ、あのビートルズ独特のサウンドを成立出来ないのである。

次は他の有名なバンドと比較してみたい。例えば4大バンドのひとつのキンクスはミック・エイボリー脱退後も活動が続いているし、キンキーサウンドは変わらない。ストーンズのチャーリー・ワッツはサウンドに於いて、リンゴ程の重要性は感じられず、独特なリズム・キーパーに徹している。そもそもチャーリー・ワッツとリンゴ・スターでは、楽曲並びにバンドに於ける存在感が全く違う。元々はロックでもR&Bでもないジャズ界の人間だったチャーリーこそ、強運の持ち主だったのだと思える。
キース・ムーン亡き後のフーに関しては、一時まったくダメになったが、近年のザック・スターキー(リンゴの息子)になってからはさほど大きな違和感は無い。更にビーチ・ボーイズに関して言えば、今も昔も誰一人としてドラミングに注目しないし言及もしない。
手数の多さを良しとするならば、ビートルズ以降に出現した多くのスーパー・グループのドラマーに軍配が上がることは否めない。ジンジャー・ベイカーやミッチ・ミッチェル、そして1967年以降のキース・ムーンだろう。しかし、彼らがビートルズでドラムを演奏しても名曲にはなり得ない。何故なら、ビートルズはロックバンドであるが、一方でボーカル・グループだからだ。ジンジャー・ベイカーのドラムはジャック・ブルースのボーカルを食ったし、キース・ムーンもしかり。ミッチ・ミッチェルの場合はジミヘンが桁違いなパフォーマーだったので上手くバランスが取れたのだ。


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