最後にビートルズに加入した"遅れて来たビートル"とも称されるリンゴ・スター。その交代劇の真実を知る者は、
 今やポールだけ。ここに来て彼の存在を自分なりに考えてみたいと常々思っていました。       Episord 3
 「ジョージ・マーティンはピート・ベストのドラムが良くないと言っている。レコーディングには代役を立てると言っているが、どうする?」
表向きは3人に知らされずに解雇を言い渡されたとなってはいるが、実際はエプスタインは3人にそう持ちかけたはずだ。バンドの重要な編成をマネージャーの意見で決められるはずがない。ジョージの進言からジョンもポールも常々気に留めていたのは確かだろう。
ただ、そうは思うものの、今までの経緯を考えると、ピートの母親の恩義に背くことになる。しかし、方や3人のピートのドラムに対する不満は募るばかりで、出来るならばリバプールでbPと称されるリンゴが欲しい。3人の気持ちはそんな間を揺れ動いていたのだろう。
ジョージの証言からも解るように、ハンブルクではピートは他のメンバーとバンド以外で付き合いをすることは無かったと言われている。大はしゃぎで下品なジョークを飛ばす不良の3人に対して上品で物静かな優等生のピート...スチュを含む4人はドラッグに手を出したが、ピートだけは最後まで手を出さなかったと言われている。
それほど真面目だったのだ。元々育ち柄も違うし、毛色が全く違っていたのである。しかし、ステージでのピートの人気は一番で、それにはジョンもポールも全く適わなかった。ビートルズの中で一番のアイドルはピートだったのだ。ある文献によれば、ステージでピートのボーカルになると、ジョンとポールは客に良く見えるように両端に寄るか、または跪いて演奏したと言われている。エプスタインもそれを重々解っていたので、これから売り出して行く上でのピートの解雇は思いもしなかったと思える。
しかしながら、どうも他の3人やエプスタインと反りの合わなかったピート。皮ジャン、リーゼントはダメだ!これからはスーツとマッシュルームカットにしろ!そうでないと売れないとのエプスタインの戦略に、あのジョンでさえ素直に服従したのにも拘わらず、ピートはスーツは着たものの、最後までリーゼントを止めなかった。こういう辺りも複雑だ。
またジョージの証言を持ち出すが、ピートがギグを休んだ時、リンゴに代わりに叩いてもらった時に「これだ!」と思ったから、自分がジョンとポールに進言したとあるが、ジョージに言われなくとも2人は十二分に解っていたはずだ。あの天才的な2人がそんな鈍感なはずがない。恐らく弟分の言うことに耳を傾けるようにしながら、ジョンは軽く頷くか生返事を返していたのではないだろうか。いずれ、どうしょうもなくやって来るべき粛正に対して口はつぐんでおいた方がいい、ジョンは正直なジョージよりも大人だったのだ。
ピートの解雇は3人の合意だったと思うが、最終的に決断したのはジョンしかない。ビートルズは誰が何と言おうが、ジョンのバンドなのだ。ポールを引き入れたのも、ジョージをメンバーにしてやったのも、バンドリーダーのジョンなのである。
同じバンドのメンバーとはいえ、ポールやジョージにその辺りの決定権は無い。もし、これをジョンが反対したら解雇はあっただろうか?私は無かったと思う。それは、ジョンのバンドだからだ。
ジョージ・マーティンはピート・ベストが使い物にならないという事は疑う余地もない事実で、バンドメンバーには知らせず、エプスタインとの間だけで話を進めたと言う。マーティンはただ単に録音の時にだけ誰か代わりのスタジオミュージシャンの影武者を立てようと提案しただけらしいが、それが突然の交代劇でマーティンも驚いたと言う。
ピートの母親の恩義に背く行為と、やっと目の前に開けた自分達の未来に対して揺れ動く気持ちは多々あっただろうが、3人の気持ちは、このジョージ・マーティンの意見が出た時点ではなく、実はそれ以前に決まっていたのかも知れない。
ジョンにとっては、この機会が最高の渡りに船だったのではなかろうか...
 ある文献にはこう書かれている。ピートの解雇が決まり、エプスタインはその言い渡しをメンバーにさせようとしたところ「手を汚すのが、お前さんの仕事だろ?」とジョンに言われて自分が言ったと。ジョン、ポール、ジョージの3人はピートに会うこともなく、クビの言い渡しをエプスタインにやらせた。そしてエプスタインに呼び出されたピートは突然の解雇を言い渡されたのだ。これについてポールとジョージは「卑怯なやり方だった」と後年発言したと言う。

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