エプスタインが亡くなった当時、ビートルズはマハリシの「超越的瞑想」に夢中になっていた。この「超越的瞑想」とは何であるのか。ある時期、間違いなくビートルズに影響を及ぼしていたと思われるマハリシとは、一体いかなる人物なのか。エプスタインの死をその当時のリンゴは、このように答えている。
「僕たちはマハリシから悲しんではいけないと教えられた。エプスタインの魂が、僕たちの感情を感じる取るから...僕達が幸せになろうとすれば、エプスタインもまた幸せになれる。でも、重要なのは自分本位にならないことなんだ。悲しくて落ち込んでしまったら、それは自己憐憫に過ぎない。それは何かを失った自分自身に同情しているに過ぎないんだ」
私などは、これは本当にあのリンゴが言った言葉なのだろうかと疑問に思ってしまうのであるが、雑誌記者のインタビューに答えたものとして記録に残っている。しかし、こうした態度では、エプスタインの家族から、ビートルズの態度があまりにも冷た過ぎるという風に思われたのも致し方ないかも知れない。
マハリシの超越的瞑想は、なるほど世間的な常識を超越していることは間違いない。リンゴは、エプスタインに対して、他の3人とはまた違った感情を持っていただろう。
ピート・ベストをクビにして、新しく加わったリンゴは、エプスタインには特別な思いがあったとしても不思議ではない。当時、リンゴに向けられたかも知れない怨嗟の声は、殆どエプスタインが被ってくれたのである。
「すごく誠実な男だった。エプスタインには感謝したいことが山のようにあるんだ」そうした気持ちが、エプスタイン家の人々に素直に伝わらなかったとしたら、全く残念なことではないか。エプスタインは、ビートルズが熱心にその教えを学んでいたマハリシというインドの僧侶を信用していたとは思えない。
彼には、ビートルズのように長期休暇をとるといった選択肢は無かった。ビートルズが再び活動を再開するまで、彼は、いつでもそれに対応出来るように気配りしていなければならなかったのである。ビートルズの中で、おそらくもっとも自己本位では無かったリンゴは、かなり熱心にマハリシの教えに耳を傾けている。
「あの頃、僕は自分について僕の存在とは一体何なのか、そして世界とは何なのか、色々考えていたんだ」ビートルズの一員になるや、普通ではあり得ないほどのスピードで、頂点に登りつめてしまった若者としては、当然のことだったのかも知れない。
リンゴとモーリン(当時の妻)、ポールとジェーン(かつての恋人)が、既に、ジョージとパティ(当時の妻)、そしてとジョンとシンシア(当時の妻)が滞在していたマハリシの瞑想道場に着いた時、“涅槃”を目指すために信じがたいほど多くの人々がやって来ていた。
それぞれが、自分達にとって新しい教えが、何か特別なものをもたらしてくれるのではないかと信じていたのである。
ジェーンやシンシアは、この宗教体験が冷えつつある恋人あるいは夫との仲を戻すチャンスになるのではないかと考えたのではないかと、後から言われている。有名人としては、女優のミア・ファーロー、ビーチ・ボーイズのマイク・ラブ等も参加している。
マハリシの教えが、何故そのように多くの人々の注目を浴びたのかは興味深い。それはマハリシの教え方が、ある意味で西欧的だった...あるいは西欧人に受け入れやすいものだったということがあったと言えそうである。
|