私が愛してやまないビートルズ、そしてジョン・レノン。そのジョンに対しての気持ちを書くはずが、ビートルズを題材にした、
当人の回顧録になってしまいました。単なる一人の人間の戯言に過ぎません、不快に思われる方は読まないようお願いします。
拝啓、敬愛なるジョン・レノン様 J
第11話 成川忠男登場
 文化祭二日目の朝、キサブローが抜けた状態でバンドをやることに決まったものの、僕は未だやる気のない気持ちでいた。だから朝からのリハーサルもまるで気が入らない状態だった。
「なんや、元気ないなー」教室に入ってくるなり英語の中井先生が笑いながら言った。この先生当時25、6才ぐらいだっただろうか、ビートルズフリークというか洋楽フリークでよく授業中にビートルズやクリーム、ストーンズなどの話をよくしてくれた。髪型もマッシュルームカットだから気合いの入ったフリークだ。歳が近いせいもあって僕らには兄貴のような存在だった。
「昨日はなかなか良かったらしいやん、おぅ、いいねコレ。ちょっと触ってもいいかな」彼は僕の黒いレスポールを首に掛けて音を出し始めた。コードAで裏打ちのバッキング、すぐさま「Get Back」と気付き、ベース、ドラムと入って演奏が始まった。中井先生ジョン・レノン気取りのガニ股ポーズで熱唱。
不機嫌だった僕もつい笑ってしまった。先生も嬉しそうだった。やりたかったんだろうねきっと。
「Get Back」が終わって「Nowerwr man」を引き続き演奏し、先生はもう上機嫌。やる気のなかった僕も少しは気が晴れたような気分になって来た。「もうどうにでもなれ」みたいな開き直りがあった。
僕のクラスのN君や武澤君のクラスのM君もギターやヴォーカルで参加してくれた。彼等にしてみればバンドに加われるということで喜ばしいところだったのだろうが、こちらの思惑に反して彼等がヴォーカルになり僕等がバックバンドみたいになってしまった事に納得が行かない僕だったが、成り行き上飲むより仕方がないのだと思うようにした。ライブはもうひとつも、もうふたつも物足りないというのは否めない事実だったが、もう殆ど諦めの境地だったから、取り立てて気にする事も無くなって来ていた。
僕達は殆ど演奏に徹していた。ビートルズや歌謡曲などを演奏し、キャロルも「ルイジアンナ」やら「憎いあの娘」なんかをやっていた。
途中、僕が後ろの方でギターをチューニングしている時ステージの中央付近で何やら武澤君に話し掛ける生徒が目に付いた。
「もっとキャロルやってや」ステージ中央真ん前の椅子に陣取ったその生徒は慣れ慣れしく声を掛ける。
僕は気に留めずに次の曲をと皆に促し、演奏を続けた。曲が終わるたび、その生徒が武澤君に話し掛けるので僕は気になり、武澤君を呼んだ。
「おい、あいつ何言うとんねん?」
「なんや、キャロルやってくれやの、ギター弾かしてくれやのって言うとるんや。うるさいガキやで」
「ほう...」その生徒をよくよく見たが見覚えのない顔だ。どうも下級生のようである。
「ちょっとこっちへ呼んできて」武澤君に呼ぶように伝えるとその生徒はさすがに少し緊張した面持ちで僕の処に来た。
「お前、『ファンキー・モンキーベイビー』弾けるか?」鼻筋超しに少し見下すように僕が言うと
「うん、弾けるで」少しこわばった表情ながらもタメ口で彼は返した。
じゃあということで僕のレスポールを渡すと、彼はイントロのさわりを弾いてみせた。上手かった、完璧とまでは行かないがキサブローとは別格だと即座に感じた。それからその下級生を巻き込んだ僕達のバンドはキャロルオンパレードとなり、M君以外に他の組の悪ガキどもが歌わせろと寄ってたかっての大盛り上がりになった。椅子を片付けてフロアでツイスト踊りまくる者続出。
次第にヒートアップして最後はお決まりのコースの喧嘩である。何人かがモメだして殴り合いの大乱闘。殴り合う者、止めに入る者両者入り乱れての大騒ぎだ。教室の真ん中は人だかりになっていた。血を見る喧嘩など日常茶飯事だったので別段驚くことも揺るぐことも無かった僕達だったが、一番心配したのは楽器だった。だから喧嘩そっちのけで皆で一目散に楽器を廊下に運び出した。今でも思い出すと笑ってしまうが、もの凄いスピードの脱出劇だった。あっと言う間とはああいう事を言うのだと感心した。彼の名は成川忠男。二つ下の一年生だった。


写真はその明くる日の講堂での演奏シーン 
教師と全校生徒の前での演奏でした。左端でベースを弾くのはMr-T 写真右端が私Cutsとその奥がター君こと成川忠男
Mr-Tのスリッパには笑ってしまいます。


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