私が愛してやまないビートルズ、そしてジョン・レノン。そのジョンに対しての気持ちを書くはずが、ビートルズを題材にした、
当人の回顧録になってしまいました。単なる一人の人間の戯言に過ぎません、不快に思われる方は読まないようお願いします。
拝啓、敬愛なるジョン・レノン様 A
第2話 ビートルズ入門
 毎月購入している音楽雑誌「Guts」にビートルズ特集と題して、楽譜が掲載されたのは中学3年の春の事だった。しかし掲載されているのを見たにも拘わらず、それでも僕は腰を上げようとはしなかった。それは曲のひとつも知らなかったからだ。しかし、その切っ掛けはすぐさま訪れた。
すぐ後の初夏の頃のTVコマーシャルだった。東芝のステレオの宣伝で「Let It Be」を歌うポールの映像が映った。髭面のポールがピアノを弾きながら熱唱し、ジョン、ジョージ、リンゴが垣間映る。何とも高次元で完成された、いかにもプロフェッショナルで大人な音楽のように思えた。
これがビートルズか...全身に鳥肌が立ったのを覚えてる。それからは、そのTVコマーシャルを心待ちにするようになり、少し前まで無視していたビートルズの楽譜を再び開いた。
そこには「Let It Be」をはじめ、有名処の曲が並んでいた。僕はその中から三種の神器のような「Let It Be」「Yesterday」「Hey Jude」の3曲を選び、誰に頼んだのかは忘れたが、小型のオープン・リールのテープにこれらを録音してもらい、来る日も来る日も聴きながら歌っていた。
「♪エルピー、エルピー、エルピー、エルピ〜♪」よくレコードが擦り減るまでとか、テープが擦り切れる状態とか言うが、まさしくその通りの状態で聴いていた。
今でこそ誰が歌っている誰の作品とまで解るが、当時はそのような事さえ思いつかない程で、ただただ一緒に歌ってマスターしたいという思いでいっぱいだった。
しかし、フォークソングは人前で歌ったが、ビートルズを人前で歌う事は無かった。英語の歌を歌うのは発音にしても巻き舌で、何だか気取っているような、何となく気恥ずかしく思えたからだろうか。しかしビートルズの曲を歌う自分自身に何かしら大人めいた匂いを感じ、ささやかな喜びのような心地よさがあったことは確かだった。
やがて3曲をマスターした僕は、次へと触手を伸ばし始める。とうとうビートルズ入門である。一緒にフォークグループを組んでいる佐野君に尋ねてみると何枚か持っていると言う。
いつの間に!という驚きが先に立った。自分が気付かぬうちに先を越されていたと言うか、僕にとってはかなりショッキングな事実だった。一人っ子の彼は、両親から溺愛されてて、僕には夢のような大きなセパレート型のステレオを持っていた。
来れば録音してやると言うので、僕はその頃両親から買ってもらった4トラックのラジカセを自転車に積んで意気揚々と彼の家へと出向いた。大きなステレオが鎮座する前に僕達は腰を下ろした。
「オールディーズ」「sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band」「Rubber Soul」それに何枚かのシングル盤が無造作に置かれている。どれを聴くのも初めてだからイントロを少し聴いた感じで録音する曲を決めた。当時、さすがの彼も4トラックのステレオデッキは持っておらず録音は直録でやった。ステレオから鳴り響くビートルズをそのままラジカセの内臓マイクで録音するのだ。一旦録音し出すと喋れないといった至極原始的な録音方法である。
「オールディーズ」はいい曲がたくさん入っていると言うので全曲、あとは2つのアルバムとシングルから数曲、「Lovely Rita」や「Nowhere Man」どういう訳か「Act Naturaly」を録音した覚えがある。
僕はまるで大量の宝物を探し当てた探検家のような気持ちで、嬉しくて帰ってから収録した曲を次々と聴きあさった。「She Loves You」「From Me To You」「恋を抱きしめよう」「Help」などなど名曲が続く。まるで乾いた砂漠に水を注ぎ落とすかのように、ビートルズはあまりにも新鮮で僕の体の中に染み込んで行った。その後もこのような録音を繰り返し、僕のカセットテープにはビートルズの曲が次第に増えて行った。
やがて中学を卒業し高校へ入った僕は、中学からやっていたバスケット部に入り、そこで思わぬビートルズファンと巡り会う。

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