当事務所は直営工事の場合の設計監理はおことわりしています!
 A,通常の形態
通常の場合、左図のように施主が設計者に設計を委託し、建設会社と契約、三者による打合せの上工事を進めて行きます。施主は建設会社に代金を支払い、建設会社は各下請け業者に対して代金を払う訳です。
建設会社の監督は施主、設計者と打合せた細目を元に各下請け業者を指導し、また、各業者の間を取り持ちながら工事の流れを繋いで行きます。
下請け業者は建設会社から支払いを受けるので、監督の言うことを利きますし、今後の信頼関係の為にもキチンとした仕事をしようとします。
だから、基本的に施主や設計者は建設会社に対して物を言うわけで、下請け業者に対して直接言うのは道筋が違うというわけなのです。
で、たまに見かけるのが「直営」と呼ばれる形態です。直営とは建設業者などに発注せず、大工、左官、ガラス店などの各業者に直接、施主が工事を契約、発注し、支払うという形態です。
昔は家を建てたりする時は大工の棟梁が現在の建設会社および現場監督の役割をしていました。また仕事を受取り(全体をいくらでという形で契約)ではなく常用(各日当計算)で工事をしていた事もあり、施主が直接業者に支払いをしていました。
最近、よく見掛ける「直営」はそうではなく、施主に何らかの建築経験があり、予算が無い為に会社経費や現場経費、中間マージンが必要なくなるとの考えから、採用するパターンが多く見受けられます。
 B,直営の形態
各業者の見積もりだけを集め、計算すればとんでもなく安い金額が計算機のデジタルに示されるか解りませんが、私は「おやめなさい」と言います。
まずと言っていいくらいロクな物は出来ません。似て異なる物は出来ますが、我々プロが目指しているような物には決してならないからです。
施工を管理し監督をするという事は、傍目にはたやすく映りがちで、畑は違うが同じような方向の仕事、たとえば土木工事を監督されていたような方や、昔1、2年くらい監督業をかじったことがある。または現在も職人で建築業に従事しているという方達が、このくらいなら自分でも出来ると思われるようです。
建築の施工、それもキチンとした管理というのは、そのような安直に出来るものではありませんし、そのように甘いものではありません。甘くみると痛い目にも遭いますし、予算も結局はオーバーしてしまうのがオチです。
建築は生き物です。土木などと違って物凄く多くの業者が、短期間に重なり合いながら仕事が進んで行きます。
工程もそうですが、各工種同士の取り合いなどについてもそうです。日に日に育って行きますから毎日が勝負です。よって施主が直営をする場合の第一条件として、自分の仕事を持たず常に現場に居ることが出来るという事です。
職人さん達は色んなことを聞いて来ます。「あそこは、どうするの?」「あの材料が必要だから入れておいてね」とか「○○の工事はいつ入るのか?じゃあ、ウチはいつ入ればいい?」という具合です。
この時に即答出来るように常に現場にいなくてはいけません。いつも聞きたい時にいないとなると、職人さんも受け取って仕事をしているわけですから、いつまでも待っているわけにいかず、自分なりの考えで、自分なりのやりかたで施工せざるを得ません。
よって、他の職種との取り合いなどがいい加減で疎かになってしまうわけです。
次に施工管理者として、どれくらいの技量、技術があるかという点です。
これにはかなりの問題があります。
直営でも出来ると確信するような施主さんは、自信過剰と「なんとかなる型」のタイプの方が多いのでしょうが、よほど本格的な現場管理を長年に渡って経験してきた者でないと、勤まりません。
当たり前ですが、誰でもがすぐに出来るモノなら、誰も苦労しないという事です。
物の解ったプロなら決して手を出さないでしょう。私も設計の前は十数年現場監督をし、施工に携わってまいりました。おかげでいざとなったら今でも施工管理を完璧にこなすことは出来ます。
そんな私でさえ、自分の家などを建てるとなった時、直営でやろうなどとは決して思いません。現場の監督なしにキチンとした仕事など出来ないというのが身にしみて解っているからです。
リタイアして道楽でやるのであれば別ですが。「餅屋は餅屋」という言葉があるように、お金が要るにはそれなりの理由があるということです。
よい施工、よい建築とはと、たまに質問されることがあります。その時いつもこう答えるようにしています。
「すべてが普通に見えること。どこにも疑問のない出来であること。」
出来上がった建物の隅々を見て、ただ単に普通に見えるのは、そこに監督、設計者の細々とした打ち合わせ、または納まり上のアイディアが盛り込まれているからです。決して自らが物申す事はありませんが、そこには長年培って来た技術的なノウハウが生かされているのです。
結論をまとめると、いくら設計監理者がこれが良しと現場管理者に伝えたところで、この管理者が正常に機能しないと現場に伝わらないばかりでなく、空回りばかりして思惑とはかけ離れた方向へどんどんと流されて行きます。これでは監理者の居る意味がまったくない訳です。
こういう理由から、当事務所では直営工事の場合の設計監理をお断りしている訳です。




All copy right YARD Yoshimura arch office reserved