■設計事務所って何なんでしょう?

 ■設計事務所って何なんでしょう?

 皆さんに「設計事務所の仕事って何なんでしょう?」と聞いたら、たぶん「建物の図面を書くこと」と返って来るでしょう。また「建築家とはどんな人でしょう?」と聞くと「凄い有名な建物を設計する人」または「安藤忠雄、黒川紀章、丹下健三、高松伸....」
確かに建築家と呼ばれる人というのは、実績も才能もある立派な人であるというのは間違いではありませんが、まぁ一般的にはこのような認識にしか過ぎませんよね。
 「設計事務所に設計を頼むなんてとてもとても」とか「設計してもらう分予算的に高く付くんじゃないか?」とか「自分の言い分なんて通してはもらえなくて、勝手な設計をされるんじゃないだろうか」というような思いが皆さんにあると思います。 しかし、実際は全然違うのです。このページでは、
そのような皆さんの疑問、不安、思い等について順次解説をして行きたいと思います。


 ■形の無い物を形にするということ

  世の中、物を買うということを考えれば、ほとんどが形のある物ですよね。電化製品、衣服、自動車、家具、食器から楽器まで無数にあります。現実の世界に存在する目の前にあるものを買うというのは誰にも解りやすいことです。商品を手に取って見定めることも出来ますし、品物の善し悪しもよく解ります。また、すでに実在している物ですから、すぐに無い物でも注文すれば、必ずそれと同じ物を手にすることが出来ます。
 しかし建物の設計というのは、建物をすぐに目の当たりに出来ないので解りにくいし、形の無い物を買うことに意義を感じられないと思われるのも一般的な感覚なんですね。
 そこで設計事務所の仕事を解りやすい例にたとえると、たとえば衣服・洋服の「オートクチュール」の世界、その意味は「高級仕立て服」です。要は「オーダーメイド」ですね。それを発注したとしましょう。あなたの体型、色の好みで、好きなスタイルに仕上げてくれます。でも、好きなスタイルって誰がデザインするのでしょう?あなたがするのですか?
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出来ない事もないでしょうが、自分の思うままにデザインすると、とんでもなくへんてこりんな物になってしまいかねませんよね。人より変わったデザインでセンス良く、色使いや色柄もあなたにピッタリな洋服をデザインするのって、やはり経験豊富なファッションデザイナーですよね。
そのような洋服も生地とか色柄、スタイルはデザイン画を描いた時にイメージする事は出来ますが、その時点ではまだ手にすることは出来ません。この世に一つしかない洋服を手にするには少しの時間が掛かるのです。
「形の無い物を形にしてこの世に送り出す」なんか大そうな言い方ですが、設計という仕事はそれに似ています。
この世にたった一つの建物をデザイン(設計)をし、オーダーメイドの建物を創り上げるのが設計事務所の仕事なのです。
設計というのは、お金を頂く時(設計図書が出来た時)には図面だけで何の形もありません。皆さんが不安や疑念に思われるのが、そこにあると思います。お金を払うのに実質的な物が無い。あるのは「絵に描いた餅」 みたいな図面だけだからです。
 しかし、私達設計事務所の仕事というのは、この時点では約半分が終わったに過ぎないのです。


  ■監理という言葉
  
 上記で述べた半分が終わった以降の仕事として「監理」というのがあります。良いデザインを設計するのはもっともですが、もうひとつ大事なのが「監理」なのです。確かに良い設計図があったとしてもその通りに施工されなければ、まさに「絵に描いた餅」に終始してしまします。
どういうことかと言いますと、まず「かんり」といっても「監理」「管理」があります。現場監督さんは「管理」の方で現場の施工や組織を管理します。
「監理」とは現場そのものの業務などを指示したり指導したりして取り締まることなのです。要は実際に施工を請け負う建設会社・工務店に対して施主の立場で現場と予算を監理するのです。
 図面を書いてもらったので知り合いの施工業者に頼んだとしましょう。見積書が提出されて来ます「金3,500万円也」とでもしておきましょうか。その3,500万円が本当に正当なものであるか、あなたに解るでしょうか。「こんな凝った建物だっら、坪これくらいは掛かりますよ。今のご時世ですから、これでもかなり勉強させて貰っているんですがね」と言れたら、何も比べるものが無いあなたは相手を信用せざる得ないでしょう。キュウリや大根が1本2万円だと言われたら誰だって解るし、怒るでしょうけどね。
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 なぜ3,500万円掛かってしまうのかは、細々とした明細書が記入されていたとしたも、そこに記載されてある細かな部分的な単価、解りやすくいうと、たとえば「床モルタルコテ押さえ ¥5,000/m2」と書いてあったとしましょう。何の事だか解らない人もいれば、床の仕上げだとは解ってはいても、その値段が本当にそれで適正なのかどうか解らないのが普通です。そのような事のないように設計事務所の監理者は金銭的な監理を行い、施工業者に対して細々と指導して行くのです。ちなみに適正な価格は¥2,500/m2程度です。ですから、3,500万円と言われた建物でも、適正な単価を算入すれば3,000万円で済むことだってあるのです。
 こういう事は施主が1社指名で建築を依頼する場合(これを特命という)に実際によく起こる事なのです。ぼったくろうとまでは思ってはいないでしょうが、競争相手の無い分、どうしても単価が甘くなってしまうのが実情なのです。よって当事務所では施工会社3社程度の競争入札を基本としています。施主の知り合いの会社があれば、そこにも参加してもらいますし、なければ当事務所にて信用のある施工会社を紹介させて頂きます。同じ設計図書で見積りをしても、必ず各社で金額の格差は生じて来ますし、単価等の見比べや予算の検討も出来るからです。
あくまで建物の建設を建設会社1社の設計施工でなく、設計事務所と施工会社とを分離発注するということで、お考え頂き、トータルで予算を設定された方が良策かと言えます。そうすれば設計事務所へ委託する経費も総予算内で収める事が出来るからです。


 ■現場監理について

 さて施工業者が決まり、いよいよ着工です。設計図書は多い場合では70枚以上にもなります。簡単な平面図、立面図から細かな造作家具等の詳細図、電気設備や衛生設備図などといった、さまざまな図面があります。
「これだけの図面があれば、さぞかしキッチリとした物が出来るだろう」と皆さんはお思いになられるでしょうが、しかしこの図面だけでは施工は出来ません。というと皆さんは不思議に思われるでしょうが、この図面は原設計といって見積り〜契約〜工事を進める上での基準図にしか過ぎない物なのです。(ただし、工事費の増減や施工の正否はこれを元にします。)
基礎、鉄骨、コンクリート、製作物の詳細図、アルミサッシ、木工事の納まり、照明器具の配置、設備器具の配管系統図など、実際の施工に合わせた図面が必要なのです。これは施工業者側が細部にわたって施工方法や寸法的な事を監理者と打合せる為に作成する物で施工図と呼ばれます。
監理者はこの施工図で、施工時におかしな処が発生しないか、設計図を元にした仕様になっているか、また仕上げ時の影響がないか等ををチェックし、施工業者に対して指示、指導して現場を進めて行きます。
よって、この施工図をチェックする能力も監理者には必要なのです。
コンクリートであれば、その基準強度、鉄骨であれば、その部材(サイズや厚み)が正当なものであるか、またアルミサッシの気密性やその性能、仕上材、木材の品質が仕様に合っているかなど、施主さんが設計図書を見ても解らない実質的な部分を施主の立場で監理します。また、工事進行中での施主さんからの変更の要望等による予算の増減の監理(追加工事を予算内で収める為の減額工事の調整)なども含めた物が、監理者の現場監理の仕事なのです。

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